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新方式の生体断層画像法を開発

平成20年5月29日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

――計測速度が1000倍(世界トップ)を達成――

 JST先端計測分析技術・機器開発事業の一環として、北里大学の大林 康二教授らは、オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)と呼ばれる光の干渉性を利用して物体内部のようすを撮像する光断層画像法の新しい方法を開発し、計測速度を現行市販品の1000倍(世界トップ)の超高速にすることに成功しました。
 眼科機器のOCTはすでに市販されていますが、これまでのOCTでは不可能であった、生体をさまざまな角度から観察できる立体的な光断層画像を撮ることが可能になり、診断の速さと精度を飛躍的に高めることができます。
 本研究グループが光ディマルチプレクサ注1)マルチチャンネル光検出器注2)での同時並列計測を可能にしたことにより、超高速のOCT計測が実現し、1秒間に60以上の断層画像を撮像して、それらの画像を組み合わせて作る3次元断層画像の超高速撮像が可能になりました。これにより、OCTが生体のより深い部分の断層画像を要求される歯科診断などにも適用できるようになりました。
 今回開発された方法は、内視鏡に組み込むことにより、生体を切り出して行われていた生体検査に代わり、生体を傷つけることなく生体検査が可能になる技術です。
 本開発成果は、平成20年1月に米国のサンノゼで行われた国際会議バイオス08で口頭発表され、注目を集めました。また、論文はすでに米国のオプティックス・レター誌のオンライン版に公開され、同年6月15日発行の同誌に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。
事業名 先端計測分析技術・機器開発事業/要素技術プログラム
研究課題名 「生体計測用・超侵達度光断層撮影技術」
チームリーダー 大林 康二(北里大学大学院医療系研究科 教授)
開発期間 平成17~20年度(予定)
担当開発総括 若林 健之(帝京大学理工学部教授)
 JSTはこのプログラムで、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を目指しています。

<開発の背景と経緯>

 人体の3次元断層撮影には生体浸透度の高いX線が多く使われています。X線は人体には有害であるため、これに代わるものが求められています。
 本研究グループは、OCT用の光源として、高速で波長走査が可能な近赤外レーザー光を用いました。この近赤外レーザー光は新たに開発されたもので、生体浸透度の高いものです。照射光と参照光を干渉させた干渉信号をフーリエ解析注3)などで処理することにより、従来のOCT計測と同じ時間で生体の3次元断層画像を得ることができました。生体浸透度と測定速度をさらに向上させて、3次元画像の分解能を高めることにより、信頼性の高い診断法とすることを目指しています。

<開発の内容>

図1

図1 本方式の仕組み

 新方式では、光源の光を光干渉計注4)を通して生体に照射します(図1)。光源は、たくさんの波長の光が同時放射される光コム光源がふさわしいのですが、連続波長光源でも可能です。光照射光学系注5)で生体に照射する光の方向を走査し、生体から反射された光を光照射光学系で集め、干渉計を通して光ディマルチプレクサに導きます。ここで分光された光をマルチチャンネルの検出器で受けて信号をコンピューターに送って処理し、3次元の立体的な断層像を表示します。このように、光ディマルチプレクサとマルチチャンネル光検出器での同時並列計測を可能にしたことにより、超高速のOCT計測が実現できました。

<今後の展開>

図2

図2 歯の断層画像

光により歯の内部を見たもの。エナメル質と象牙質がよく分離できており、歯肉との境も明瞭である。

 眼科機器のOCTはすでに市販されていますが、生体浸透度と測定速度の向上により、生体の4mm程度の深さまで測定可能となり、眼科より深い生体浸透度が要求される歯科診断にも適用できるようになりました(図2)。さらに、これまで内視鏡を用いて撮っていた内臓の表面反射画像の代わりに、新方式のOCTにより内部構造も示した高分解の立体画像を、従来の内視鏡と同じビデオレートでリアルタイムに示すことができ、光による無侵襲の光バイオプシー注6)が可能になります。つまり、生体を切り出して行われていた生体検査に代わり、X線を使わずに生体を傷つけることなく生体検査が可能になります。超高速診断法が確立されると、大腸がんなどは検査しながら同時に手術を行うことも可能となります。

図3

図3 本方式の試作装置

  図4

図4 小指の指紋の立体画像

※図4の立体画像をマルチアングルで観察できる動画は、下記のアドレスからダウンロードできます。
小指の指紋の立体画像 http://phys.clas.kitasato-u.ac.jp/~obayashi/FingerPrint.avi (AVI形式 31.8MB)

<用語解説>

注1)光ディマルチプレクサ:
 1つの信号にまとめられ多重化した光信号をそれぞれの波長に分光する装置。

注2)マルチチャンネル光検出器:
 分光されたそれぞれの波長ごとの光の強度を同時並列に測定する装置。

注3)フーリエ解析:
 画像を構成する光波が重ね合わさった信号から、必要な光波を分離して求める方法。分離された光波を解析し再構成することにより画像が合成できる。

注4)光干渉計:
 測定対象光を2つの光束に分割した後、光路差を与えて合成させる装置。

注5)光照射光学系:
 光源から試料に向かう光と試料から反射される光を集める光学系。

注6)光バイオプシー:
 病変組織の光学特性を測定することによる診断法。

<掲載論文名など>

“Fourier-domain optical coherence tomography using optical de-multiplexers imaging at 60,000,000 lines/s”
(光ディマルチプレクサを用いた毎秒60,000,000本のフーリエ-ドメイン光干渉断層撮像)

DongHak Choi, Hideaki Hiro-Oka, Hiroyuki Furukawa, Reiko Yoshimura, Motoi Nakanishi, Kimiya Shimizu, and Kohji Ohbayashi.

Opt. Let., 33(12): June 15 (posted 05/09/2008).

<お問い合わせ先>

大林 康二(おおばやし こうじ)
北里大学大学院医療系研究科 教授
〒228-8555 神奈川県相模原市北里1-15-1
Tel:042-778-8034 Fax:042-778-8034
E-mail:

安藤 利夫(あんどう としお)
独立行政法人 科学技術振興機構 先端計測技術推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地
Tel:03-3512-3529 Fax:03-3222-2067
E-mail:
URL https://www.jst.go.jp/sentan/