科学者としての働き方。現場で生きる9人のキャリアモデルファイル

博士課程での経験が、
ものづくりの現場で活きている
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植田 直樹
株式会社日本製鋼所 研究開発本部
広島研究所 材料・分析グループ 研究員

植田 直樹さん

FOCUS POINT

長さ数百メートル、幅数十メートルはある巨大な建物の中で、人の背丈以上もある鉄の塊の成形や組み立てが進む。1907年に北海道で創立した株式会社日本製鋼所は、古くは戦艦の大砲のような大口径火砲の国産事業から始まった会社だ。2014年に信州大学大学院総合工学系研究科で博士号を取得した後、日本製鋼所に入社し、研究開発本部に所属する植田直樹さんに、学生の頃と社会人となった今との間での考え方の変化をうかがった。
After PhD research on ceramic materials at Shinshu University Graduate School in 2014, Dr. Naoki Ueda joined The Japan Steel Works, Ltd. When he entered the university, he thought he would become an academic. Even though his doctoral course wasn't easy, he persisted his dream. The turning point came when he experienced an internship. During the internship, he found research in company is based on quality, cost and delivery that required different sort of wit, imagination and creativity from research in university. Such experience gave him new inspirations and made him embark on a different career. He now researches on metal materials and on technologies for manufacturing. His skills acquired during the PhD course such as experimental design, logical explanation and critical thinking encourage his works on research, manufacturing and business in the company.

PIECE OF FUTURE

今の植田 直樹さんをつくっているもの・こと

  • アルペンスキー競技で培ってきたメンタルの強さ
  • インターンシップ・プログラムに参加して、大学の研究とは異なる考え方やビジョンで行われるものづくりを知ったこと
  • 博士号を取得する過程で得た、実験系を組み立てる力、説明する力、研究の先の展望を考える力

材料開発から製品が売れるまでが
ひとつの仕事

日本製鋼所は、長年培ってきた鉄鋼製品の高度な製造技術と品質を核として事業を幅広く展開し、発電用タービンの大型ロータシャフトや石油化学プラントの石油精製用圧力容器、プラスチック原料からペレットをつくる造粒機やペレットからプラスチック製品をつくる射出成形機など、素材から機械製品までを一貫して製造、販売している。同社広島製作所では、造粒機や射出成形機などの設計・開発・製造を行っており、それらに使用する材料を研究・開発するのが植田さんの仕事だ。樹脂機械では、使用目的や部品種類によって必要な特性が異なり、それに応じた材料をより高い品質、より低いコスト、より短い納期でつくるための研究が日々行われている。

その研究環境は、日本製鋼所ならではの特徴的な部門配置によってつくり出されていると植田さんは話す。「自分が開発を担当しているものをいかに製品までもっていくか、製造をどうするかを含めて、事業部門、製造部門、研究部門が密に連携しながらつくっています。ですから、たとえば大学のラボでは、こういう特性が得られましたというところで自分の仕事は終わるけれど、ここでは、それが最終的に製品になるまでがひとつの仕事なのです」。

研究開発の成果として狙った特性をもつ材料をつくり、特許を取得できたとしても、それで終わりではない。その材料を使った製品が安定した品質で生産できるかどうかを実証し、さらに顧客の満足が本当に得られるかを確認して、製品とすることができる。そこまでいって、はじめて仕事が完了するのだ。 「大学では、学会発表や論文掲載というかたちで成果が出ますが、それとは違ったタイプのシビアさを感じています」。

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装置を使って材料を分析する。

大学入学時からの信念に従い、
迷いなく博士号取得まで進む

植田さんは、大学入学当初から企業で研究開発することを目指していたわけではない。それどころか、「大学に入学するときから博士号を取得することを考えていて、その先は大学の教授になることを目指していました」という。子どもの頃から、何でもかんでも自分で調べてつくって解決したい、というような好奇心旺盛な性格だったという植田さん。大学や大学院の研究でも、時間を見つけては何かと機械の分解や器具の自作をしていた。博士号の取得は「簡単にいくとは当然思っていませんでしたが、やると決めたらどんな苦労があっても行き着くんだ、というのが昔からの考えだったのです」。

大学院での研究テーマに選んだのは、セラミックスの複合材料の開発だった。信州大学では多様な学部学科が互いに連携しながら研究を進めるというスタイルをとっており、植田さんが所属していた工学部物質工学科の研究室では、工学部内の各学科や医学部と連携していた。植田さんのテーマは、医療分野の材料開発にもつながる研究だったのだ。

セラミックスの原料を使って複合材料をつくり、構造の分析や強度試験などを行う。目標とする特性に到達するためにはどのような種類の材料をどれだけ混ぜるのか、どういう混ぜ方をするのか、焼き方はどうするのかなど、さまざまなものづくり要素の試行錯誤を繰り返す。なかなかうまくいかない実験に、精神的に追い込まれることもあったが、「スポーツで培ったメンタルの強さに助けられていたかなと思います」。

実は植田さん、アルペンスキー競技で何度も故障をしている。入院して手術をすると筋力が大幅に落ち、歩くのも難しい状況になることもある。そこからスポーツ復帰は厳しい道のりというが、「私は無茶をするタイプだったもので、同じ場所を3回手術しているのですが、そのたびにリハビリして復帰してきました」。その踏ん張りは研究にもいかんなく発揮され、手を動かし続けた。結果、「カーボンナノチューブ複合アルミナセラミックスの微構造と機械的性質」というタイトルで博士論文を書き上げ、大学入学時からのひとつの目標であった博士号を取得した。