科学者としての働き方。現場で生きる9人のキャリアモデルファイル

ひとつひとつ積み上げて、
自分の立ち位置を確立する
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府金 慶介
日立造船株式会社 機械事業本部 開発センター
電池プロジェクトグループ 研究員

府金 慶介さん

異なる専門性の中で、自らの強みを活かしたい

企業に入って仕事をしたいと考えていた府金さんは、ポスドクになった後、北海道大学が採択されていたポスドク・インターンシップ推進事業に参加。7月から9月までの間、材料系を得意とする企業でインターンとして働いた。そして大学に戻った後に出会ったのが、日立造船だった。日立造船は現在、舶用エンジン製造やシステム開発に加えて、ごみ焼却発電施設の設計・建造を事業として行っている。さらにその中で、焼却熱を利用した発電や蓄電も行っており、自分の研究が活かせるかもしれないと考えて、研究所の見学を願い出た。

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「ずっと材料の研究をしてきて、知識と実績を積み上げてきたので、同じ専門性をもった集団よりもそれ以外の集団の中で研究開発する方が自分の強みを生かせるのではないかと考えました」。日立造船は、名前の通り、もともとは造船業が主軸だった会社だ。そこから、造船事業を切り離し、造船事業の技術を生かし、プラントや機械の事業展開を行ってきた。ごみ焼却発電施設もそのひとつであり、今や主力事業となっている。そうした、会社がもつ強力なエンジニアリングの力は大きな魅力だった。さらに、すでにある材料や部品を利用して性能のよい焼却装置や発電装置を設計し、組み上げていく中に材料設計の考え方を入れ込むことができれば、さらによいものをつくれるかもしれない。積み上げてきた自らの強みを活かせる場として、日立造船への入社を決意した。

大阪市・八尾市・松原市 環境施設組合舞洲工場

博士として、企業の研究開発に貢献できること

企業の研究員として働いておよそ1年。「大学での研究と最も大きな違いを感じたのは、コスト意識です」と府金さんは話す。電池は、すでに市場が存在している。その中で、競合相手よりも価格が安く、性能が高いものを開発することが求められるのだ。また、時間も限られている。常に複数の研究プロジェクトが動いており、年に一度、達成度などが審査される。十分に進められていないプロジェクトは解散の可能性もあるという。

その中で活かせる、博士号をもった人材としての強みはと聞くと、「考察力と、次にどう進めるかを考える力には、自信があります」と答えた。プロジェクトを進めるにあたって期限が切られているため、条件を多様に振って、網羅的に調べてみるというアプローチが多い。「そのやり方は時には必要だが、無駄も多くなってしまう。時間がかかるやり方ではあるんですが、きちんとした知見をコツコツ積み上げるのも大切なのです」。長く企業の中で研究をしていると、どうしても使い続けている材料や技術を活用しながら、「よりよいもの」をつくることに意識が向きがちになる。それに対し、アカデミアでの研究では、実験結果の積み上げとともに、そこに自分のアイデアをプラスして「新しいもの」をつくらないと成果にならない。コンスタントに結果を出していきたいという会社や組織の思惑に、アカデミア経験者が貢献できるのは、結果の積み上げによりブレイクスルーを起こして、研究開発のスピードを一気に上げることなのだと府金さんは言う。

今後は、日立造船の中で、材料系の事業を大きな柱にしていきたいという府金さん。日立造船でしかつくれないような材料を開発して、オンリーワンの製品をつくっていきたいと考えている。「当社のこれまでのやり方は、買ってきたものを加工して組み上げていくエンジニアリングだったのです。今、私が行っている研究は、会社としてもチャレンジです」。

その研究で成果を出し、材料が重要なのだという認識を社内に広めていくことで、自分の強みが活きる場所をつくっていく。そのためには、社内への成果のアピールも大切だ。大学にいた頃は論文を書いて学会で発表すれば、成果になった。今は、日々の報告や能力評定の中で、評価する人にも合わせながら、自らの取り組みの意義を伝えていかなくてはならない。「苦手なんですけど」と苦笑いで話すが、自分の立ち位置をつくり、やりたいことを通していくために、ひとつひとつ積み上げていくのだ。

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築港工場の中に、職場である研究所がある。ポスドク時代にも見学に来た場所で、今働いている。

【PDF版】 (4.1MB)

取材を終えて

日立造船といえば、大阪の舞洲にあるアラビアンナイトのようなごみ処理施設をつくった会社。その研究所はどんな様子なのだろう?と思いながら、駅からバスに揺られること約20分。鉄鋼関連の工場地帯で錆びたタンクやパイプが立ち並ぶ中に現れたのは、白くすっきりとした日立造船の研究所でした。府金さんは淡々と語るタイプに見えましたが、一方でこの会社の中で新しい材料事業を立ち上げるのだ、という強い意志が感じられました。自らの強みをしっかりと認識し、それをもとに新しい価値をつくっていこうという姿勢は、さすがポスドク経験者。拠って立つことのできる専門性をもつ人の強みを感じることができた取材でした。
(取材・文 株式会社リバネス 2015年3月11日取材)