科学者としての働き方。現場で生きる9人のキャリアモデルファイル

ひとつひとつ積み上げて、
自分の立ち位置を確立する
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府金 慶介
日立造船株式会社 機械事業本部 開発センター
電池プロジェクトグループ 研究員

府金 慶介さん

FOCUS POINT

博士号を取るまでは一切の就職活動を行わず、ポスドクになってからの就職活動で日立造船株式会社に入社した、府金慶介さん。学生の頃から今まで、電極材料の設計という一貫したテーマで研究を行っており、「やりたいことを仕事にできている」という。環境が変わっても、自らを貫き続けるために、どのような心構えをもっているのだろうか。
Dr. Fugane who joined Hitachi Zosen Corporation, had not performed any job hunting until his post doctorate days. Since his student period, he worked on the topic of his interests which is the design of the electrode material. This persistency to follow his interests was originated from what his mentor has once taught him, "Research and life is the same. They are based on accumulation of rationale". Later, he found out that his strength could be maximized at Hitachi Zeosen although the specialization is different. Currently, he is spreading the awareness and importance of material science to allow a new independent emphasis in this fi eld. Therefore, research, results reporting and communication, would probably become the core tools to build up his own life.

PIECE OF FUTURE

今の府金 慶介さんをつくっているもの・こと

  • よりよい研究環境を求めて、修士1年次から連携先の研究機関に出向したこと
  • 考え方が魅力的で共感できる恩師に出会えたこと
  • 自らの強みを活かすため、自分の専門性とは異なる分野の企業を選んだこと

学ぶ楽しさを求め、より良い研究環境に身を置く

岩手県出身で、高校生の頃はスキーしかしていなかった、という府金さん。スポーツ特待生として、1年の半分は雪の上にいた。「当然、大学の現役合格は無理でした」。浪人してスキーをやめ、再受験のために勉強に集中し始めたことで、学ぶ楽しさに気づいていった。わからなかったことが、わかるようになるのは、楽しい。その感覚は今でも続いており、「誰も見たことがないことを、世界で初めて目にしている。考えたことが、その通りになる。そういう瞬間って、おもしろいですよね」と話す。

大学に入学し、ひとつめの転機が訪れたのは学部3年生の後期。研究室に配属され、実験が楽しくなってきて、よりよい研究環境をもつ他の大学院の受験を考え始めていた頃だった。同じ研究室の卒業生で、茨城県つくば市にある物質・材料研究機構(NIMS)に勤めていた人が講演に来た。独立行政法人の研究所とはどんなところだろう、大学と比べて何が違うのだろうと気になって、学部4年生の時に夏季インターンシップで訪れた。「環境も人も、ただすごいと感じました」。ここで研究をしたい。そう思った府金さんは、修士1年生の秋から連携大学院協定を利用して、NIMSでの研究を開始した。

恵まれた研究環境で進めていたのが、燃料電池の電極触媒の設計だ。どのような物質、構造だと触媒性能が高まるかをシミュレーションで予測し、実際につくって確認する。そのサイクルで、より高性能な材料をつくっていく。博士号を取得した研究内容は、セリア(セリウム酸化物)を使った触媒に関するものだ。白金セリア系の触媒は高い性能を示す。それがなぜなのか、金属と酸化物との界面の構造をシミュレーションで予測し、実際にそのような構造が存在するのかを分析した。さらに、その界面が触媒性能に重要ならば、同じ構造を別の材料でつくってもいいはずだと、白金より安価なタングステンを用いて実証した。この研究で培われた専門性が、今も仕事に活かされている。

研究も人生も、積み上げの先に道がある

NIMSでの研究生活の中で、もうひとつの転機である、北海道大学の森利之教授との出会いがあった。「考え方がすごく魅力的な先生なんです」。研究と生き方は、同じだ。それが森教授の哲学だった。研究では、ひとつひとつ結果を積み上げながら、根拠に基づいて仮説を立てていく。検証の結果、仮説が間違っていたら、確かな根拠をもって積み上げた場所まで戻り、別の仮説を立てる。「人生においても、その考え方は適用できる。そうすれば、自分のやりたいことをできる可能性が高まり、人生を豊かにできる」。

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考え方と人生に影響を与えてくれた、恩師の森利之先生と。

自分がこれまで積み上げてきたことが、自らを支える根拠となる。それがないと、考え方が場当たり的になり、一貫性のない人生を送ることになってしまう。そうした考えをもつ森教授は、「ひとつのことを追いかける意志こそが君のもち味なのだから、それを忘れないようにスキーは続けたほうがいい」と、府金さんに大学受験以降やめていたアルペンスキーを再開することを薦めた。

研究は、これまで誰もやったことがないことを、自分が初めて行うものだ。人生も、まったく同じ生き方をする人間などいないのだから、誰も歩んだことがない道を歩んでいくことになる。そういう意味で、研究と人生はリンクする。自分の望みに沿った生き方をするためには、一瞬一瞬を自ら考えて、進みたい方向に行かなければならない。迷いが生じたとき、これまでの自分の積み重ねが、自信をもって判断する後押しをしてくれるのだ。

府金さんが森教授と出会って、もうひとつ考えたことがある。それは「民間企業に入って、物をつくれる研究者になりたい」ということだ。森教授が民間出身の人だったこともあり、企業の中で、研究成果をもとにして実際に使われる材料をつくりたいと考えるようになった。

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2015年ぐんま国体にて。森先生に再開を促されてから、今もずっと滑り続けている。