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医療・生命科学計測のための機器

開発成果
バイオマーカー探索用血清由来糖タンパク質糖鎖自動抽出装置
および定量解析法の開発
チームリーダー
濱田和幸(システム・インスツルメンツ(株)・取締役社長)
keyword
糖鎖
疾患診断
質量分析
バイオマーカー
タイプ
プロトタイプ実証・実用化タイプ
開発課題名
全自動糖鎖プロファイル解析診断システムの開発
参画機関
北海道大学、ブルカー・ダルトニクス(株)、サイエンス・テクノロジー・システムズ(株)
開発期間
機器開発タイプ:平成16〜20年度、プロトタイプ実証・実用化タイプ:平成21〜23年度

課題概要

 一滴の血清などから、現在の450倍の速さで全自動で糖鎖を分析する、世界初の「糖鎖自動分析装置」を開発する。 癌や各種生活習慣病などで発現が変化する糖鎖の異性体構造を含む20種類以上の構造と量の解析を実現する。医療費の高騰や高齢化社会など、疾患予防診断の必要性が益々増大しているが、疾患により変化する糖鎖の解析は予防診断上不可欠な技術であり、本技術の開発により社会貢献を目指す。

得られた開発成果の概要

■開発の背景/経緯

 北海道大学大学院・先端生命科学研究院の西村紳一郎教授と、システムインスツルメンツ(株)、サイエンス・テクノロジシステムズ(株)、ブルカーダルトニクス(株)等は、平成16〜20年度の「機器開発プログラム」で開発した糖鎖自動前処理装置(装置名SweetBlot®)を用い、血清中複合糖質糖鎖を選択的に回収した後、自動測定装置部によって糖鎖構造プロファイルを取得するまでの全解析を行うことが可能な自動糖鎖解析装置の開発を目的とした。
 生体の中に存在するタンパク質のほとんどは翻訳後修飾という形で糖鎖の付加を受けており、糖鎖の存在は様々な生命現象に深く関わっている。それら糖鎖の構造と疾患は密接に関係し、多くの疾患で糖鎖構造に変化の起こることが知られているが、解析が煩雑なため詳細な検討は困難を極める。そのため、スクリーニングなどの大規模構造解析を可能にする優れた手法や解析装置は開発されておらず、欧米特許に基づく遺伝子解析が先行している状況にある。本開発では、生体 内に微量に存在する糖鎖を高速かつ簡便に回収し、定量的に測定可能な環境を開発することで、疾患の予防あるいは早期診断に貢献を果たすことを目的としている。

■開発の成果

「糖鎖自動前処理装置(SweetBlot®)」は、多様な成分を含む生体試料から糖鎖のみを高い選択性のもと高速に回収し精製する独自の画期的な概念(Glycoblotting法)により開発されており、糖鎖捕捉担体の開発・担体上でのオリゴ糖修飾法開発など複数の要素技術開発の上に成り立っている。
全自動解析装置は、糖鎖自動前処理装置と質量分析装置の一体化制御により、糖鎖自動前処理装置により糖鎖を精製した後に質量分析装置(MALDI TOF-MS)へ導入、最終的には測定条件を自動で設定した後、測定を行うことが可能となった。

Glycoblotting法

Glycoblotting法

全自動糖鎖プロファイル診断システム

全自動糖鎖プロファイル診断システム

本開発の技術的特長

  • 血清の前処理から糖鎖発現プロファイル解析までの全ての工程を世界で初めて自動化することにより、飛躍的な処理速度を達成。
  • 複雑な構成成分からなる生体試料から糖鎖のみを高選択的かつ高速に捕捉・精製する独自の画期的な概念による「糖鎖自動前処理装置(仮称:SweetBlot®)」を開発。
  • 精製回収された糖タンパク質糖鎖をハイスループットに質量分析にて定量解析するために必要な酸性糖シアル酸のメチルエステル化工程を自動化処理に世界初導入。
  • 複雑な混合物中から特異的に糖鎖のみを回収する糖鎖捕捉用担体として、BlotGlyco®ビーズを開発し、既に上市。Glycoblotting法による可逆的な糖鎖の捕捉・遊離が可能。

生体内の微量の糖鎖分析で病気の早期診断が可能に

■糖鎖解析の迅速化、簡易化への貢献

 本システムにより、生体試料由来糖鎖の大規模解析がはじめて可能となり、100例以上の血清試料中の疾患特異的糖鎖発現プロファイルの取得がわずか数日で可能になった。従来、熟練した研究者の手によっても数ヶ月かかっていたが、装置のオペレータにより、非常に簡単にそして高速に取得できる。

■糖鎖バイオマーカーの探索への貢献

 多くの疾患で、糖鎖の発現は量・質ともに変化のあることが示されており、今後、糖鎖の変化から病気を診断するといったバイオマーカーの探索に、大きな展開が期待される。

■糖鎖の定性・定量的な発現動態(グライコミクス)解析の方法論の標準化

 Glycoblotting 法とBlotGlyco®ビーズにより、従来困難であった糖鎖の分析が誰にでもできるようになった。糖鎖生物学研究に興味を持つ多くの研究者の参入を促しつつある。本成果を広く発信するために糖鎖の解析からタンパク質・ゲノムへと遡ってその機能を探るGFRG(Glycoform-focusedReverse Genomics)研究会が2007 年に発足した。

上記成果の科学技術的根拠

【出願特許】

  1. 特願2006-217165、「糖鎖捕捉物質およびその用途」、出願人:北海道大学、住友 ベークライト(株)
  2. 国際公開番号WO2008/001888(特願2006-181292)、「糖鎖分析用血清前処理法」、出願人:北海道大学、塩野義製薬(株)
  3. 国際公開番号WO2007/099856(特願2006-046173)、「質量分析用生体関連分子のエステル化法及び得られたエステル化 誘導体の質量分析方法」、出願人:北海道大学
  4. PCT/JP2008/68111「 糖鎖自動前処理装置」、出願人:北海道大学、システム・インスツルメンツ(株)
  5. PCT/JP 2008/71709「糖鎖分析による肺疾患の診断方法」、出願人:北海道大学、塩野義製薬(株)
  6. PCT/JP2009/70859「糖鎖分析による膵臓がんの診断方法」、出願人:北海道大学、塩野義製薬(株)
  7. PCT/JP2009/70860「糖鎖分析による肺がんの診断方法」、出願人:北海道大学、塩野義製薬(株)

【発表論文等】

  1. Furukawa J-i., Shinohara Y., Kuramoto H., Miura Y., Shimaoka H., Kurogochi M., Nakano M., and Nishimura S.-I., “A comprehensive approach to structural and functional glycomics based on chemoselective glycoblotting and sequential tagconversion”, Anal. Chem., 4, 1094-1101 (2008)
  2. Miura Y., Hato M., Shinohara Y., Kuramoto H., Furukawa J.-i., Kurogochi M., Shimaoka H., Tada M., Nakanishi K., Ozaki M., Todo S., and Nishimura S.-I., “BlotGlycoABCTM: An integrated glycoblotting technique for rapid and large-scale clinical glycomics”, Mol.Cell. Proteomics, 7, 370-377 (2008)
  3. Kita Y., Miura Y., Furukawa J., Nakano M., Shinohara Y., Ohno M., Takimoto A., and Nishimura S.-I., “Quantitative glycomics ofhuman whole serum glycoproteins based on the standardized protocol for liberating N-glycans”, Mol. Cell. Proteomics, 6, 1437-1445 (2007)
  4. Kurogochi M., Amano M., Fumoto M., Takimoto A., and Kondo H., and Nishimura S.-I., “Reverse glycoblotting allows rapid enrichment glycoproteomics of biopharmaceuticals and disease-related biomarkers”, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8808-8813 (2007)
  5. Nishimura S.-I., Niikura K., Kurogochi M., Matsushita T., Fumoto M., Hinou H., Kamitani R., Nakagawa H., Deguchi K., Miura N., Monde K., Kondo H., “High-Throughput Protein Glycomics: Combined Use of Chemoselective Glycoblotting and MALDI-TOF/TOF Mass Spectrometry”, Angew. Chem. Int. Ed., 44, 91-96 (2005)
  6. Nagahori N., Abe M., Nishimura S.-I., “Structural and functional glycosphingolipidomics by glycoblotting with aminooxy-functionalized gold nanoparticle”, Biochemistry, 48, 583-594 (2009)
  7. Amano M., Yamaguchi M., Takegawa Y., Yamashita T., Terasima M., Furukawa J.-i., Miura Y., Shinohara Y., Iwasaki N., Minami A., and Nishimura S.-I., “Threshold in Stage Specific Embryonic Glycotypes Uncovered by a Full Portrait of Dynamic N-Glycan Expression during Cell Differentiation”, Mol. Cell. Proteomics., 9, 523-537(2010)

※本プログラムの中から生まれた開発成果などにより
◎イノベーションジャパン2005スペシャルアワード優秀賞 受賞 「複合糖質糖鎖精製キット S-Bio BlotGlyco」
◎第7回産学官連携推進会議 産学官連携功労者表彰 日本学術会議会長賞 受賞 世界初の糖鎖自動解析装置「Sweet Blot」