資料4

開発課題名「超高感度・超高分解能パッシブ型THz 近接場顕微鏡の開発」

最先端研究基盤領域 機器開発タイプ

開発実施期間 平成24年10月〜平成28年3月

チームリーダー :  梶原 優介【東京大学 生産技術研究所 准教授】
サブリーダー :  河村 賢一【(株)東京インスツルメンツ 商品開発室 室長】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  (株)東京インスツルメンツ
T.開発の概要
 チームリーダーらは、単一光子レベルの感度を持つテラヘルツ検出器(CSIP)を世界で初めて開発した。さらに、CSIPを導入した近接場顕微鏡を構築し、外部照射を使用せずパッシブに常温物質が発するテラヘルツ波を検出し、平衡状態にある格子や分子、さらに電子の運動状態をナノスケールで直接観察することに世界で初めて成功した。本課題では、要素技術であるCSIP検出器および近接場顕微鏡の性能を大幅に発展させ、数値シミュレーションでしか示すことができなかった物質や分子のダイナミクスを直接観察できる、究極のテラヘルツ近接場顕微鏡の実現を目指す。
U.開発項目
(1)検出器CSIPの開発
 目標である波長12、15、18 μmの単波長タイプ(帯域幅1.5 μm程度)を完成させただけでなく、波長9-20 μmの領域全体を複数の単波長CSIPでカバーすることができた。また広帯域タイプについては、1検出器で2波長の検出が可能なCSIP(帯域幅5 μm程度)を実現した。
(2)近接場プローブの開発
 金属プローブについては、目標を上回る20 nm以下の先端径を安定して実現したうえ、近接場信号の取得も行った。また誘電体およびCNTプローブについても、目標程度の先端径をもつプローブを実現した。
(3)パッシブ型THz近接場顕微鏡(s-SNOM)の構築
 SNOM対応が可能なAFMを構築し、常温から100 ℃の試料温度範囲においてパッシブ近接場信号を問題なく検出した。
(4)s-SNOMの評価
 先端径20 nmの金属プローブの実現により、目標を大きく上回る空間分解能20 nmを達成したほか、走査速度100 ms/stepを達成した。また雑音レベルに関して、最終的に目標を上回るS/N=6.1を達成した。
(5)応用展開
 フォノン起因の熱励起エバネッセント波を初めて取得したのみならず、非常に特徴的な信号が得られることを見出し、近接場信号取得の指導原理解明をほぼ達成した。これにより、開発装置の新たな応用可能性を見出した。さらには、熱励起でないエバネッセント波の検出に向け、ナノギャップやグラフェン細線の測定を行い、非平衡現象起因と考えられる近接場信号を取得しつつある。このことは、開発装置のポテンシャルを高め、大きな需要を生み出す可能性のある、重要な結果と考えられる。
V.評 価
 本課題は、テラヘルツ領域でのフォトンカウンティングが可能な高感度検出器(CSIP)を用いて、物質表面から自発放出されるテラヘルツ波を、AFM探針をスキャンしながら検出する顕微鏡の開発である。CSIPの多波長検出と広帯域化の達成、近接場プローブの微細化と目標を超える20 nm分解能の実証で、温度可変型s-SNOMとして目標以上の性能を達成している。応用面でも誘電体フォノン起因の新たな信号やナノギャップなど非平衡現象起因と思われる近接場信号の取得に成功している。競合する技術開発が特に見当たらない中で、将来的な商用化に向けて強く期待できる成果が得られている。
 本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。