資料4

開発課題名「微量放射線の生物影響評価システム(装置)の開発」

放射線計測領域 革新技術タイプ(要素技術型)

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  藤野 亮【日美商事(株) 取締役社長】
サブリーダー :  森島 信裕【(独)理化学研究所基幹研究所 中野生体膜研究室 専任研究員】
中核機関 :  日美商事(株)
参画機関 :  理化学研究所、国立保健医療科学院、(株)柴崎製作所
T.開発の概要
 放射線の低線量被ばくによる生体への影響は解明されていない部分も多く、大規模、高精度かつ迅速に解析するシステムが求められている。本課題では、新規のアレイ技術、スポッティング技術を用いることにより、低線量被ばくによってタンパク質に生じる微小な変化を大規模、高精度かつ迅速に観測するためのシステムを開発する。これにより、低線量被ばくによる生体への影響を詳細に解明することを目指す。
U.開発項目
(1)高精度スポット技術の開発
 先端研磨時の形状バラツキを低減したスポットピンの試作を行い、4.5 mmピッチ192ピンのスタンプヘッドを製作した。自動スタンプの試験機及びスポットピン先の超音波洗浄装置に、試料用384ウエルマイクロタイタープレートの自動供給装置等を追加し、試料プレートの供給とスタンプ及びスポットピン先の自動洗浄までおこなうことが可能な、全自動アレイヤーとして完成させた (0.75 mmピッチ、6912スポット可能)。評価用試料ではCV5 %以下の精度でスポットが可能となった。
(2)サンプル調製法、アレイ染色法の確立
 細胞溶解と蛋白質変性に用いる試薬を二種類決定し、それぞれに適した処理温度(65 ℃または 95 ℃)と処理時間(15分または5分)の至適化を行った。優良抗体は当初の選別目標を超えて、計100種類選別した。また、アレイ上の抗体を検出する手段として二波長の蛍光色素を利用した蛍光抗体による検出条件を確立した。これにより、標的蛋白質、内部標準蛋白質を同時検出し、標的蛋白質のスポットシグナル値を規格化することが可能になった。
(3)統計解析とソフトウェアの開発
 取り込んだアレイ画像を数十秒以内で自動的に定量可能とし、同じ条件下の複数の発現量データから共通シグナル抽出を行い、実験条件特異のノイズを除去する機能が選択できるようにした。タイムコースデータにMCMC法を適用し、ノイズを低減した。実験条件ごとに相関係数や距離相関を指標値に用いてグループ化を行い、クラスターやネットワーク図を描画可能とした。データの主成分分析、重回帰分析などの統計的方法を適用することにより定量的影響評価が可能となった。
(4)実証実験
 照射対象細胞としてヒト大腸癌細胞(HCT116)を用い、30日間2.0 μSv/h、総線量1.4 mSvの照射実験を5回行った。最適化したバッファーで細胞を可溶化し、アレイ作製用サンプルを調製し、16行12列を4ピッチでスタンプすることで3072スポットのアレイの作製を行った。上記アレイの蛍光法による特異蛋白の検出、および作製した画像処理ソフトウェアによるシグナルの検出と定量化を行った。
V.評 価
 本課題は、逆相タンパク質アレイ分析を行うために必須な高精度のスポットを開発する全自動アレイヤーを作り上げることと、低線量あるいは低線量率による被ばくに影響を及ぼすと思われる特異的なタンパク質を探索することを目的としている。スポット作製には特殊なスポットを開発し、アレイ染色技術へ有効に展開できることが確認できた。開発された装置はスポット作製だけではなく、アレイ染色を行ったとき、アレイ画像データを自動認識処理するシステムとその後の展開を効率的に行う統計解析システムが装着され、膨大なデータを効率的・定量的な評価を行うことができたことは評価に値する。さらに、本開発にあたって、低線量あるいは低線量率のγ線により被ばくした細胞をアレイ染色し、定量できる方法を確立し、放射線による影響評価を実行できる第一歩を踏み出した。低線量あるいは低線量率のγ線被ばくを想定して、ヒト大腸がん細胞を使用してのγ線照射実験を行い、被ばく細胞と非被ばく細胞とのアレイ画像の発現量の差異及び統計的解析から影響評価あるいはリスク評価が行えることが示されたが、いまだデータ量の不足のため、さらなる実証が必要とされる。実証実験が不十分であり、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する[B]。