資料4

開発課題名「エネルギー弁別・位置検出型α線サーベーメータの要素技術開発」

放射線計測領域 革新技術タイプ(要素技術型)

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  金子 純一【北海道大学 大学院 工学研究院 准教授】
サブリーダー :  石橋 浩之【日立化成工業(株) 無機材料事業部 担当部長】
中核機関 :  北海道大学
参画機関 :  日立化成工業(株)、名古屋大学、日本原子力研究開発機構
T.開発の概要
 既存のα線サーベーメータでは、137Cs 等からのγ線・β線、ラドン子孫核種からのα線存在下において、239Pu、240Pu や238U からのα線を識別する事は難しく、新たな技術が求められている。本課題では、新たな検出技術(GPSシンチレータプレート)を開発し、高速・高感度(Pu、Rn子孫核種存在比率1:50の環境において、1BqのPuを5分以内に測定可能)なα線サーベーメータの開発につなげることを目指す。
U.開発項目
(1)GPS焼結体の開発
 セルフフラックス法を中心としたGPS焼結体の合成方法の最適化を進めた。開発開始当初、シンチレータ粒サイズが小さいため透明度が不足し、α線スペクトルも単結晶と比較すると不十分な状況にあった。透明度を高くし、粒成長を加速する新しい試みとして、1700 ℃、200時間の連続運転が可能な箱型電気炉を用いた。10時間焼結したGPS焼結体を粉砕、分級した後、再度1700 ℃付近で長時間焼成した。その結果、平均粒サイズ150 μm以上のGPS焼結体の合成に成功した。
(2)GPSシンチレータプレートの大型化と製作・支給
 3Dプリンタによる型枠製作を行い、7 cm×7 cm×1 cm程度の角板状に原材料を成形した後に焼結しガラス表面の改質を行い、5 cm×5 cm、厚み40 μmmの非常に透過率の高い均一な焼結体GPSプレートの製作に成功した。さらにα線ピークの低エネルギー側に裾を引く問題を解決するために、焼結方法の改善や熱間等方圧加圧法(HIP)の各種試行を行い、多結晶体粉砕型プレートとほぼ遜色のないα線スペクトルを呈する5 cm角焼結体GPSプレートの開発に成功し、JAEAおよび名古屋大学に供することができた。
(3)据置型検出器を使用した先行試験
 測定条件の探索とデータ解析ソフト等の改良を行う目的で、プレートの性能評価、ピクセル分割条件の探索を行い、目標性能達成に必要な条件を明らかにした。その一つとして、Puの代替である241Am線源およびラドン子孫核種捕集ろ紙を線源として波高弁別試験を実施した。
(4)可搬型検出器の開発
 福島県内におけるフィールド試験について、JAEAを中心に行った。これらのフィールド試験結果を反映させ、配線や筐体構造を中心に改造を加え、ノートパソコンは別途必要だがバッテリーの内蔵化、プローブの改良も行った。その結果、エネルギーチャンネルを128chに4倍増するとともに最大分割数も512×512chとしても、4時間の連続測定が可能となった。
(5)試作機の性能評価試験
 JAEAにおける性能評価試験ではPu:Rn子孫核種存在比率 1:100の環境において、0.37 BqのPuを5分以内の測定で識別に成功した。また本体重量についても10 kg以下も達成し、十分に目標を達成した。作業環境中の大気汚染を迅速に評価する可搬型ダストモニタとしての利用が考えられる。
V.評 価
 本開発は、大型の焼結体型GPS シンチレータプレートを製造することと、これを利用した携帯型の位置分解能のあるα線測定装置を試作することが主目的である。GPSシンチレータプレートの開発については、従来開発者らが所有する技術をさらに拡張・向上させ、当初設定した達成目標をすべて超え、5 cm角焼結体GPSシンチレータプレートを製作できた。これらはノートパソコンで操作できる重量10 kg以下の装置で連続4時間まで対応できる性能を有していることからあらゆる場所で使用できると思われる。α線スペクトルの収集の安定性や精度等の基本的な検討項目が残っており、GPSシンチレータ作製については、当初の目標は達成されたが、一層の性能の向上が図られるかと思われる。可搬型検出器の利用を加速し、性能の向上検討を重ねることも期待する。
 本開発は当初の開発目標を短期間で達成し、製品に近いプロトタイプ機も完成し、実用的な観点からも期待できる装置であり、特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。