資料4

開発課題名「放射能環境標準物質の開発」

放射線計測領域 革新技術タイプ(要素技術型)

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  藥袋 佳孝【武蔵大学 人文学部 教授】
サブリーダー :  岩本 浩【環境テクノス(株) 企画開発部取締役 部長】
中核機関 :  武蔵大学
参画機関 :  環境テクノス(株)、埼玉大学、福島大学、産業技術総合研究所、(公財)日本国際問題研究所、(公社)日本分析化学会
T.開発の概要
 標準物質は放射線計測の信頼性確保に用いられるための必須の要素技術であるが、身近な農作物の放射線計測に用いることのできる標準物質が十分開発・供給されていないのが現状である。本開発では緊急の分析ニーズの高い玄米・大豆などについて放射能標準物質の生産技術を確立する。特に緊急性の高い米については、平成24年の収穫期に間に合うよう標準物質を開発する。本開発により、環境放射能分析の信頼性向上、国際標準化、トレーサビリティの確立など、国際的にも重要な貢献が期待される。
U.開発項目
(1)玄米(粒状)標準物質
 U8容器入り90 g・300本、1L瓶入り900 g・50本を調製した。γ線放出核種の認証値として134Cs 141±9 Bq/kg、137Cs 210±13 Bq/kg、40K 75±7 Bq/kgを得た。当初は規制レベル以下を設定したが、これを超える試料の測定がむしろ重要であることから、分析現場のニーズに合った仕様となった。この認証値の付与は目標通り、平成24年8月に達成した。α線・β線放出核種は極めて微弱であり、本研究開発では優先順位の低い項目であると判断し、γ線放出核種のみとした。
(2)大豆(粉状)標準物質
 低濃度標準物質について、U8容器入り75 g・294本、100mL瓶入り80 g・146本、1L瓶入り800 g・73本、高濃度標準物質について、U8容器入り75 g・252本、100 mL瓶入り80g・125本、1L瓶入り800 g・62本を調製した。目標量を大幅に超える量の調製に成功し、分析検体としては最も一般的な粉末状態の標準物質として、広範なニーズに対応し得る量を確保することが出来た。γ線放出核種の認証値として、低濃度標準物質について、134Cs 37.1±2.6 Bq/kg、137Cs 68.2±4.6 Bq/kg、 40K 619±6 Bq/kg、高濃度標準物質について、134Cs 190±11 Bq/kg、137Cs 345±19 Bq/kg、 40K 613±40 Bq/kg を得た。当初は規制レベル以下を設定したが、これを超える試料の測定がむしろ重要であることから、分析現場のニーズに合った仕様となった。α線・β線放出核種は極めて微弱であり、本研究開発では優先順位の低い項目であると判断し、γ線放出核種のみとした。
(3)しいたけ標準物質
 茶葉以上に放射性セシウムの濃縮の可能性が高く、継続的な分析が必要と考えられることから、しいたけについて標準物質を作製することとした。社会的ニーズと核種濃縮の可能性についての自然科学の立場からの判断の両面に基づく選択であった。低濃度標準物質として、U8容器入り30 g・150本、100 mL瓶入り30 g・50本、1 L瓶入り300 g・90本、高濃度標準物質として、U8容器入り35 g・280本、100 mL瓶入り35 g・10本、1 L瓶入り350 g・20本を調製した。
(4)魚類標準物質
 放射性 セシウムのみならず90Sr 分析の汚染水による海産物への影響・評価に対応するため約 10 Bq/kg の 90Sr を含む魚類認証標準物質を作製した。放射性セシウムについては、魚類(乾燥した魚肉)標準物質が低濃度の、魚類(灰化した魚骨)標準物質が高濃度の 134Cs、137Csを認証した。試料はポリプロピレン製容器(U8)、 100 mL 褐色ガラス瓶、1L 褐色ガラス瓶に充てんした後 20 kGy の 60Co γ線照射 による滅菌を行い、この中から選んだ(10〜12)試料の 134Cs、137Cs、40K、安定ストロンチウムを放射能測定 又は化学分析を行って標準物質の均質性を確認した。
V.評 価
 本開発は、食の安全安心を担保する放射能測定に欠かせない標準物質を製作・頒布することである。信頼性ある放射能分析には、トレーサビリティのある標準線源か標準物質を使用するとともに、測定装置の精度管理を含めた性能の検証には、標準物質が不可欠となる。社会のニーズをすぐ取り込み、玄米をはじめとし、大豆、牛肉、しいたけ、魚類と次々に開発し、3カ年で総計9種類の認証標準物質を開発し、社会に提供したことは非常に高く評価される。とくに、魚類の骨部ではさらに90Srの放射能濃度が認証された。特に、90Srの認証については、汚染水による海産物への影響・評価に関する社会的ニーズの高まりに対応し、標準物質の開発に必須なα線やβ線検出による放射能測定の基礎技術の確立や他の分析法の分析化学的検証や試料作製における前処理技術の検証については、今後の新たの標準物質開発に有用な知見を与えるものと確信できる。また、玄米及び魚類の標準物質について、国家標準あるいは国際標準となる機関との共同試験を行った結果、いずれも国際的同等性が示されたことから、今回に限らず今後のわが国の標準物質開発に大いに貢献したものである。
 本開発は当初の開発目標を短期間で達成し、さらなる標準物質の開発に取り組み、国際機関との密接な繋がりを広げるなど、特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。