資料4

開発課題名「放射性物質の高分解能3次元・直接イメージング技術の開発」

放射線計測領域 革新技術タイプ(要素技術型)

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  坂本 哲夫【工学院大学 工学部 教授】
サブリーダー :  奥村 丈夫【(株)日本中性子光学 取締役】
中核機関 :  工学院大学
参画機関 :  (株)日本中性子光学、(株)阿藤工務店
T.開発の概要
 「単一微粒子3次元元素分布分析装置」を応用・発展させることにより、細胞・物質レベルでの解明がされていない放射性物質の蓄積状況・態様を明らかにする技術を開発する。この技術により、137Csなど放射性同位元素を含む全元素・同位体の検出が可能となり、魚類・肉類・農作物などの細胞内部、土壌粒子、廃棄物の焼却灰粒子にセシウムが付着している像を1粒子10〜20分、最高40 nmの分解能でイメージングできる。特に、土壌中の雲母や植物体のケイ酸成分(植物石)にセシウムが取り込まれるという基礎データに基づき、これらの実証と除染対策への応用につなげる。被災現地における汚染材料の収集と先端分析機器の開発を密接に連携させ、震災からの復興を加速することが期待される。
U.開発項目
(1)含水試料への対応改良
 植物組織など、含水試料について液体プロパンまたは液体窒素中での冷却により、30秒以下で凍結できた。また、凍結後、分析装置内の試料室導入までに温度は徐々に上昇するが、終始-100 ℃以下を保つことができ、大気中での霜の付着については、蓋付きの試料台を考案、作成することにより、これを防ぐことに成功した。
(2)エアロゾルサンプラーの改良
 使い勝手の向上と、エアロゾル粒子を基板上に分散して捕集できるように、改良を施した。2013年2月以来、2年以上正常に稼働しており、目標は充分に達成した。
(3)実試料分析
 植物石、雲母、エアロゾルいずれの汚染地域の試料においても、最終的には放射性Csの検出には至らなかった。ただし、杉の葉焼却灰処理試料からは共鳴イオン化法により137Csの検出とイメージングに成功した。また、エアロゾルの分析からは、Csを保持すると言われる植物石(杉、松など)の破片が浮遊していることを見出した。なお、稲植物石、雲母に133Csを添加した試料では明確にCsを検出できたが、未処理試料からの放射性Csの検出までには至らなかった。
(4)分析ニーズの吸い上げと試料採取
 空間線量率の測定を現地にて行い、マップを作成した。2011年と比べ2014年には線量率が大幅に減少していることが示され、市民に公開した。また、測定間隔は均等メッシュではないが、平均すれば1 km未満の間隔である。稲の試験栽培については、現地活動に参加する形で実スケールの試験栽培と収穫後の放射能測定を行った。また、Cs移行の分析のため、汚染土壌にCs試薬を添加した状態で数株を栽培し、開発装置により分析した。
(5)エアロゾルサンプリングと空間線量測定
 調査区域565ヵ所の1 cm、1 m高さの空間線量率を測定し、ESRIジャパンの協力を得て線量率分布図を作成した。2011年7月から4年間の空間線量率の変化を明確にし、試験栽培場所の選定に供すると同時に、住民の安全・安心に供した。また、2013年4月から7ヵ所でほぼ毎月空間線量率測定とエアロゾルサンプリングを実施し、今年度当初予定通りの測定とサンプリングを実施した。測定点周辺の除染作業により空間線量率は明らかに低下したことや森林部での大幅な線量率の変動などを把握した。
(6)分析試料の前処理
 雲母及び植物石の試料サイズ仕分けにおいては、開発した水流による分離装置(特願2012-179643)を使用し、流量・水圧コントロールにより約10 μm以上の粒子サイズに対して、混入土砂と雲母・植物石粒子の分別を達成した。分析に適した試料の最適化として、分析用試料基板に載せた試料位置分布の実写拡大画像と同一試料に含まれている放射能物質から放射する放射線をイメージングプレートで撮影したオートラジオグラフィー画像の実寸大画像合成方法による放射能物質位置分布マップ作製による分析視野位置の効率化を達成した。
V.評 価
 本課題は、二次イオン質量分析法(SIMS)により植物石や雲母等に付着している放射性Csを検出・マッピングできるシステムを構築することが主目的であり、次いで除染のために付着している放射性Csを効率よく除去できる装置開発することが副目的である。分別装置は、SIMS分析のための試料前処理装置になるとともに、環境試料からの高濃度放射性物質の選択的分離に活用できることも明らかとなった。後者のソフトブラスト法の開発では、植物石から有効に放射性Csを除去できるとともに、本法の利用により付着面の損傷なしに放射性Csを除去できることから、汚染物質除去に有効に活用できる成果を生みだした。
 主目的であるSIMSによる放射性Cs(137Cs)の検出とマッピングであるが、自然界に存在する137Baとの同重体干渉により非常に困難であることが開発途中に判明し、新たにレーザー共鳴イオン化(RIMS)を組み合わせることにより、非常に高濃度の137Csを選択的に検出し、イメージングに成功した。RIMSの併用についても1色のRIMSよりも3色のRIMSの方がより選択性が高まることを見出した。しかし、現状のところ感度が落ち、環境試料そのままを分析できないところが課題に残る。放射性Csに特化しないで環境に存在するアクチノイド元素のマッピングについて新たな活用が推察できる。
 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。