資料4

開発課題名「反応内蔵チップによる小型遺伝子定量装置の実用化開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 実証・実用化タイプ

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  松尾 隆文【システム・インスツルメンツ(株) 研究フェローグループ 部長】
サブリーダー :  竹内 俊文【神戸大学 大学院工学研究科 教授】
中核機関 :  システム・インスツルメンツ(株)
参画機関 :  神戸大学、東京農工大学
T.開発の概要
 本課題では、PCR法にて増幅した2本鎖DNA を配列特異的に認識するZnフィンガータンパク質を用いることにより、有害微生物の大腸菌0157、サルモネラ、ノロウィルスなどの特定検出と定量が可能な小型遺伝子定量装置の開発を目指す。小型化と産業廃棄物削減のため、ピペットチップの中に、標的2本鎖DNAを認識する粒子を固定化した反応板を組み込んだ反応内蔵チップを新規開発し、反応・検出等すべての工程をこのチップ内で自動的に行うことができるようにする。本装置は世界に類のないオールインワン小型遺伝子定量装置であり、食品検査機関、食品製造・加工工場、医療・診断機関、介護施設などでの利用が期待される。
U.開発項目
(1)反応チップ、検出部の確立
 反応板上に化学吸着させるためのカルボシ基を有するメタクリル酸とスチレンの共重合体の粒子、及び物理吸着させるためのポリスチレン粒子のいずれも約100 nmの単分散球状粒子として合成することが可能であった。物理吸着については粒子の固定化状態にばらつきは見られるものの、化学的固定化と比較して比較的均一であった。また、ビオチンラベル化分子を効率的に再現性良く捕捉するためには、APTES処理によりアミノ化した表面に静電的相互作用によりニュートラアビジンを固定化する方が最も適していると考えられた。また、検出部内部において、反応板での化学発光の光を受光するために、光電子増倍管を使用して高感度化を図り、反応内蔵チップを検出部のチップ挿入部から入れて測定するが、外部からの光を遮断するための遮光構造を確立した。
(2)分析プロトコルの確立
 実際のPCR産物のかわりにビオチン修飾合成二重鎖DNAを用いて、ルシフェラーゼ融合Znフィンガータンパク質による発光検出を行った。DNAが含まれていない場合や、ビオチン修飾されていても1本鎖の状態の場合あるいはその相補鎖のみの場合については、発光はほとんど検出されず、ビオチン修飾合成ds-DNAでのみ顕著な発光が確認できた。また、ds-DNA濃度が0.1pM程度まで検出可能であることが分かった。したがって、開発されたハードウェアは、達成目標の100コピー以下を達成するのに十分な感度を有することが分かった。
(3)検出感度・時間の最適化
 O-157を大腸菌オリゴ二本鎖DNA1サンプルとして使用した。PCR前のDNA量で1000コピー/μLまで検出可能であった。平成27年2月と3月で、ZFE-LUC反応濃度を引き上げて発光強度を増加させる実験と、PCR回数を増やす実験を実施したが、目標値の100コピー/μL以下の検出感度の達成ができなかった。PCR時間は約2時間が必要で、サンプル・試薬・洗浄の分注時間は約30分、インキュベート時間も約30分、検出時間は数分で可能なことから、1サンプルあたり約4時間以内で可能である。
V.評 価
 反応内蔵チップ、光学検出部、分析プロトコル、装置検出感度、サンプル測定時間、装置小型化の6つの開発目標の内、装置検出感度以外は目標を達成している。今後、反応板表面のアビジン結合量の増加、Znフィンガ―ルシフェラーゼの反応濃度を高めることなどによる発光強度の増加、およびバックグラウンド発光を低下させることにより、検出感度をさらに向上させることが期待される。本開発においては装置本体には特筆すべき新規性はないが、反応内蔵チップと試薬に新規性と特長がある。事業化に当たってはこの特長を生かしたマーケティング・顧客戦略を立案し、販売に至るまでのロードマップを精査すべきであろう。また、反応内蔵チップと試薬の歩留まり要因と品質管理すべきポイントを的確に捉え、安定供給とコストダウンにも努めるべきである。今後の展開に関しては、本開発成果を活用してすでにPSAの検査装置としての適用が検討されている。この積極性は評価するが、当初のターゲットである食品分野での上市と事業化についても進めてもらいたい。
 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。