資料4

開発課題名「迅速がん診断支援装置の実用化開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 実証・実用化タイプ

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  出水 秀明【(株)島津製作所 基盤技術研究所 グループ長】
サブリーダー :  竹田 扇 【山梨大学 医学工学総合研究部(医学部) 教授】
中核機関 :  (株)島津製作所
参画機関 :  山梨大学、山梨大学(クリーンエネルギー研究センター)
T.開発の概要
 本プログラムの「要素技術タイプ」で開発した成果をもとに、医師がオペレーターなしの簡易操作で、外来や手術室、内視鏡検査室などその場で、がんの迅速診断を可能にする、質量分析技術を基盤とした新しい装置を開発する。本装置には、ベイズ推定に基づいた独自の学習機械ソフトウェアを開発、搭載させ、特定のがんのみならず、複数種類のがんの迅速診断支援を実現させる。プロトタイプ機によりすでに腎細胞がんなどで良好な判定結果を得ており、本開発では、他のがん種への適用も試み、測定の自動化など操作性の向上を図り、開業医に広く普及できる装置の実用化開発を目指す。
U.開発項目
(1)自動診断支援装置の開発
 測定の安定性・再現性などの性能に加え、医療機器としての感染対策・操作性などを考慮して探針の駆動機構およびディスポーザブルな探針を開発し、目標を達成した。また、ディスポーザブルな樹脂成型品で試料ホルダを開発した。医療現場向けの装置化としては、外形寸法W500xH1412xD800 mm、質量165 kg(PC、ロータリーポンプを除く)を実現し、目標を達成した。また、試料セット後、コメント入力・試料選択のみで測定から判定まで自動実行するソフトウェアを開発し、目標を達成した。
(2)疾患データベースの構築
 4,385検体・46,915データセットの蓄積を実施し、目標を達成した(内訳:腎細胞1,823検体・18,231データ、肝細胞1,093・12,391、胃603・7,517、大腸362・4,368、結腸302・2,615、その他消化器202・1,793)。
(3)学習機械アルゴリズムの最適化
 交差検証の結果偽陰性率2 %以下となる閾値を設定でき、当初目標を達成している。ただし、当初の目標はがんを見逃さないための偽陰性率を重視していたが、医療機器の認証機構であるPMDAの見解から、偽陰性・擬陽性双方を考慮して病理診断との一致率90 %を目標にするべきとの結論になった。これまで蓄積したデータによる交差検証法で検証した一致率は90 %台を示しており、今後治験により最終評価を行う。判定時間は個別目標を大幅に上回る数秒であり、測定・判定含めて目標2分を達成している。
V.評 価
 試料導入部の開発、医療現場向け装置化、装置自動化、データ蓄積によるデータベース構築、学習機械アルゴリズム最適化、PESI(探針エレクトロスプレーイオン化)の6つの目標を設定していたが、そのすべてを達成している。PESIと学習機械という特徴ある2つの技術を組み合わせて、検体を測定装置に挿入後2分程度の短時間でがんであるか否かの判定ができるようになっている。また、山梨大学医学部付属病院、日本赤十字社医療センター、横浜市立大学附属病院で本試作機を用いて腎細胞、肝細胞、胃、大腸、結腸などの多くの検体のデータがすでに蓄積されてきており、データベースの充実と判定精度の向上が図られてきている。今後の展開に関して、今秋より上記3機関が中心になって医師主導の治験が計画されており、それを経て3年後の上市が計画されている。本装置は検体検査だけでなく、術中の迅速診断装置としても今後広く活用されることが期待される。また、医学や生物学分野だけでなく、食品、環境、危険物や薬品(麻薬、爆発物、ドーピングなど)等の検査装置として展開されることも大いに期待される。
 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。