資料4

開発課題名「高感度エピゲノム解析のためのマイクロ化学システムの開発」

(平成25年度採択:ライフイノベーション領域 機器開発タイプ)

チームリーダー :  伊藤 隆司【九州大学 大学院医学研究院 教授】
サブリーダー :  田澤 英克【マイクロ化学技研(株) 取締役研究開発部長】
中核機関 :  九州大学
参画機関 :  マイクロ化学技研(株)、東京大学
T.開発の概要
 極少数(1〜10個程度)のヒト細胞から、次世代シーケンサによるエピゲノム解析のためのシーケンスライブラリを自動調製するマイクロ化学システムを開発する。具体的には、全ゲノムバイサルファイトシーケンス法とクロマチン免疫沈降シーケンス法をマイクロ化学チップ上で実現し、臨床研究現場におけるマーカー探索や細胞評価を加速する。更に、単一細胞エピゲノム解析のプラットフォームとしての医学生物学研究の新局面開拓への貢献も目指す。
U.中間評価における評価項目
(1)クロマチン免疫沈降シーケンス法のためのマイクロ化学チップの開発
 マイクロ加工技術の活用により、確実な細胞捕捉モジュール(マイクロ化学チップ)を開発した。平均径12 μmのヒト前骨髄性白血病細胞株HL60を使用して、明視野顕微鏡により捕捉の様子を観測した結果、目標としていた90%の細胞捕捉率を実現できた。
 抗体を効率的に吸着できるプロテインAや抗マウスIgG抗体による効率的固相化を行うことで抗体使用量を現行の物理吸着法の1/10に抑えることに成功した。また、抗体ビーズの保持率の目標値100%も達成した。ビーズ上に免疫沈降されたクロマチンを検出した結果、目標とした105〜6細胞からのマイクロチップ上でのクロマチン免疫沈降を達成できた。
(2)マイクロチップ上での細胞溶解・DNA調製(細胞溶解・DNA調製モジュールの開発)
 捕捉した細胞の核を蛍光色素により染色した後、SDS(2%)溶液を捕捉した細胞に流して細胞溶解の様子を蛍光顕微鏡で観測した結果、ほぼ20分程度で染色した核の蛍光信号が消えて細胞の溶解が確認できた。目標としていた90%の溶解はこの方式で実現できたと考える。多孔質ビーズへのDNA固相化を検証した結果、DNAを効率的に回収できることを確認した。また、回収DNA量の標準偏差は平均値の3%以内で非常に再現性が高かった。
V.評 価
 従来、DNAメチル化とヒストン修飾解析というエピゲノム解析のためには、105-6個の細胞が必要であった。本課題では、全ゲノムバイサルファイトシーケンス(WGBS)とクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-Seq)のための次世代シークエンサライブラリーを、それぞれ1〜10個と10〜100個程度のヒト細胞から自動取得できる装置の開発を目指している。当初設定した中間評価時に達成すべきWGBSチップとChIP-Seqチップの性能に関する目標値は、ほとんど達成することに成功している。技術開発は極めて先端的、革新的であるが、この分野の競争は激しい。今後は、早い段階で専門的ユーザーによる使用を念頭に、プロトタイプを1日でも早く作製し、早期の実用化に向けた開発を着実に推進すべきである。[A]