資料4

開発課題名「救急および災害現場で用いるポータブル血液検査装置の開発」

(平成24年度採択:最先端研究基盤領域(旧一般領域) 機器開発タイプ)

チームリーダー :  粟津 浩一【(独)産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 副部門長】
サブリーダー :  藤後 達也【オプティックス(株) ビジネス開発本部環境計測部 部長 】
中核機関 :  産業技術総合研究所
参画機関 :  オプティックス(株)、日本大学
T.開発の概要
 救急治療あるいは大災害発生時の現場において、迅速な患者の血液検査は手術や輸血のために不可欠である。本課題では、携帯型で電源不要の血液検査装置を開発し、ABO とRh(D)血液型(オモテ検査とウラ検査)、HBs、HCV、HIV、梅毒の有無をその場でスクリーニングすることを可能とする。イムノクロマトグラフィーやSPRと比べて桁違いに感度が高く、環境安定性のある導波モードセンサー技術を基盤として、チップや光学系の小型集積化、チップ上での抗原抗体反応、全血の分離、赤血球と血清のマイクロ流路内での撹拌、混合方法等の開発を目指す。
U.中間評価における評価項目
(1)流路系作製
 血球分離については、希釈全血から横孔型重力沈降流路方式を用い、ウィルス測定に影響のない赤血球混入率0.1 %以下の血漿を7分で分離できた。光学測定部の流路については、赤血球濃度30〜55 %の範囲の血液を用いて、血液型検査用およびウィルス検査用の10チャンネルに、気泡が入らないで分配できることを確認した。目標値を達成した。
(2)光学系作製
 装置小型化を図るため、光路長を短くする光学系の設計により、測定用ビームスポットを短軸1 mm長軸3 mmの楕円スポットに小さくしても、本課題開始前のビームスポット直径1 cmの装置と同等感度を実現した。流路とセンサーチップの貼り付け精度はずれ500 μm以内を達成した。以上のように目標値を達成した。
(3)血液型判定
 ABOオモテ検査については、全血を用いる方式を採用し、マイクロ流路上で3分以内での判定を確認した。ABOウラ検査用の抗体・血球の固定化については、ドライのチップでも固定可能な新規固定化法を開発し測定可能であることを確認した。Rh検査については、反射率スペクトルの時間変化を計測する方法を用いることで、3分以内の計測を実現した。以上のように目標値を達成した。
(4)ウィルス等検出
 マイクロチップ上への非特異吸着防止については、産総研発の基板表面の新規修飾方法を導入することで、実シグナル強度以下に抑制した。血球・血糖値の影響については、測定に対する影響を数値化した。HBVおよびHCVの検出感度については当初の目標値より大幅に向上している。
V.評 価
 チームが開発してきた高感度導波モードセンサーを用いて、血液型と感染症検査を使い捨てチップで行うポータブル血液検査装置の開発である。昨年度も中間評価を行ったが、当時は血球・血漿分離工程の見通しが立っておらず、しかも、その項目が中間評価目標に設定されていなかったために、1年後に再度中間評価を行うことになった。今回は血球・血漿分離工程に採用すべき技術が最終的に決定され、流路設計と光学系設計も改良変更された。さらに、産総研発の非特異的吸着を低減させる固定化法が導入され、その結果開発は順調に進み、目標は全て達成した。
 本装置の市場投入までの進め方も練り直されおり、開発装置のイメージがほぼ固まってきている。しかし今回感度改善のために導入した増感法は、流路に新たな要素を導入する必要があるなど、最終目標を達成するには、高感度性と簡便・安価性とのトレードオフの問題などを解決する必要がある。また、血液の特性は被験者によるばらつきがかなり大きいため、検体数を増やしながら評価データを蓄積し、さらに認知された代表的な検査方法との比較確認を行うなど、今後も着実に開発を推進すべきである[A]。