資料4

開発課題名「瞳関数制御による高度多機能光学顕微鏡の開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 機器開発タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  寺川 進【浜松医科大学 メディカルフォトニクス研究センター 特任研究員、現 常葉大学 健康科学部 教授】
サブリーダー :  井上 卓【浜松ホトニクス(株)中央研究所代研究室 室長代理】
中核機関 :  浜松医科大学
参画機関 :  浜松ホトニクス(株)、静岡大学、北海道大学
T.開発の概要
 液晶空間変調器(SLM)を顕微鏡光学系に組込み、瞳面での波面(位相)制御をすることで光学系全体の収差を補正して、広視野高深部に亘って精度の高い3D計測ができる顕微鏡を開発する。これを基本に、変調器による照射輝点の走査と多点化を開発する。その応用として二光子法、共焦点法、蛍光相関法、TIRF法などの高度な機能を持つ顕微鏡を試作検証する。これにより、照明条件などが切り替えられ、多様な機能が実現可能となる。
U.開発項目
(1)LCOS-SLM:液晶型空間光変調器(LCOS-SLM)の性能を高め、その顕微鏡への応用技術を開発する。
 開発したSLMの光利用効率については、二光子励起用波長域で90%、画素ピッチ12.5 μmと目標値を達成した。このSLMを搭載した顕微鏡において、焦点位置の変更・マルチビーム制御などの瞳関数制御機能が、機械的操作のない電子制御で実行できることを確認した。照明条件切り替えについても、全反射照明と通常照明、面照明と点照明、構造化照明とROI照明の切り替えをSLMの電子制御で実行できることを確認した。全ての項目で目標値を達成した。
(2)収差補正:LCOS-SLMを用いて、高深度3次元観察での収差補正を電子制御によって実現する。
 200 μm以上の深さにおいて、収差補正によって輝度・分解能ともに向上したことを確認した。同範囲において、面内空間分解能が、通常の共焦点顕微鏡と同等であることを確認し、目標値を達成した。
(3)CMOS:新規のCMOSセンサを開発する。SLMを用いた瞳関数制御と多点同時読みだしCMOSセンサを活用することで、複数の観察モードを1台の顕微鏡上で実現する。
 CMOSセンサを切り替えることにより、全電子式共焦点走査撮像と多点同時FCS計測を可能にすることを目標としたが、CMOSセンサのFCS用の性能を向上させるために、2種類のCMOSを別々のチップで開発することに計画を変更した。全電子式共焦点走査撮像では、16×16点で128×128画素の撮像に成功し、生物サンプル観察も可能となった。
(4)FCS計測:蛍光相関分光(FCS)計測をするための照明法と光検出法の開発をおこなう。
 LCOS-SLMにより全体が均一となる光強度で10×10の輝点を生成した。(3)で開発したCMOSセンサを用い、100kHzまでの高周波光信号を連続的に捉えた。一光子励起の場合 10×8=80点、ニ光子励起では 5×4=20点で時間変化の同時計測を実現し、目標値を達成した。
V.評 価
 医療診断を目標にしたレーザー蛍光顕微鏡の開発で、瞳関数をLCOS素子で制御することで、人手を介さず全電子制御の下で操作可能な、より実用化を目指した装置開発である。従来の性能を凌駕するにはLCOSの性能を向上することが必要となるが、目標はほぼ達成されていると判断する。今後、従来ある手動の蛍光顕微鏡にLCOSが導入されるためには、尚一層の技術の向上と応用分野の拡大が要求される。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。