資料4

開発課題名「分子識別3次元立体/断層画像計測用誘導ラマン散乱光干渉計の開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成23年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  由井 宏治【東京理科大学 理学部 教授】
中核機関 :  東京理科大学
参画機関 : 
T.開発の概要
 誘導ラマン散乱光のもつ位相コヒーレンスに着目し、医療・工業・情報分野における3次元立体像や断層像に用いられるホログラフィやトモグラフィに応用可能なヘテロダイン誘導ラマン散乱(SRS)光干渉計を開発する。最大の特徴は、分子の指紋領域におけるラマン散乱光の強度だけでなく、光干渉により位相も記録することで、分子識別ホログラフィ・トモグラフィ計測技術が実現できることになる。
U.開発項目
(1)白色光源誘導ラマン散乱光干渉計の開発
 誘導ラマン散乱(SRS)光干渉計を構築するとともに、中間評価後に目標値として追加した、白色パルス光源を用いることで波長掃引を必要としないマルチプレックス型誘導ラマン散乱信号の検出に成功した。開発したSRS光干渉計の、1信号の測定(積算時間)は数十秒〜1分弱のオーダーであり、ストークス光を白色光化した場合の1スペクトルの積算時間も同程度であり、目標を達成した。
(2)微分干渉型ヘテロダイン誘導ラマン散乱顕微鏡
 透過型配置のSRS光干渉計を用い、横方向4μmピッチで深さ200 nm の溝が彫られたシリコン表面を厚さ約1μmの液晶層で被覆した試験試料について、液晶に由来するSRS干渉信号を計測し、サブミクロン構造をもった埋もれた界面の分子識別的断層画像を取得することに成功した。
 SRS光干渉計をベースとした微分干渉型へテロダイン誘導ラマン散乱顕微鏡を構築した。光波数目標範囲については、信号処理の高速化と、1350 nm以上に現れる大気中水の吸収の妨害等を防ぐことで信号のS/N向上を考え、分子の指紋領域を十分にカバーできる1800 cm-1(波長に換算すると1350 nm程度)と設定したのに対し、開発した誘導ラマン散乱光干渉計は3000 cm-1まで測定可能であることを確認し、目標を達成している。
 空間分解能については、シリコン表面に横方向4μmピッチで深さ200 nm の溝が彫られた試験試料を用い、シリコン酸化膜表面のSi-O伸縮振動に由来する信号から、表面凹凸構造を反映した表面画像を深さ方向誤差100 nm以下の精度で計測ことができた。
(3)深部医療診断用誘導ラマン光音響トモグラフィ装置
 誘導ラマン光音響トモグラフィ装置の開発を行い、試験試料としてバルクの水のOH伸縮振動(〜3,400 cm-1)を対象に計測を行った。その結果、励起光とストークス光の光子エネルギー差を対象振動の振動数に一致させた共鳴条件においてのみ光音響効果による超音波の発生を確認することに成功した。測定可能到達深度は、1センチ程度とすることができた。深度方向の空間分解能は、マイクロメートルの厚みをもつ高分子多層膜などでその分解能を定量的に評価するには至っていないが、原理的には目標値の数μmに達していると考えられる。
V.評 価
 本開発は誘導ラマン散乱光のもつ位相コヒーレンスに着目し、分子識別能を持つラマン分光と三次元空間分解能を持つホログラフィを同時達成する、初のヘテロダイン誘導ラマン散乱(SRS)光干渉計の開発を目指すものである。SRS光干渉計は早期に構築しており、積算時間とサブミクロンの深さ方向空間分解能は目標通り達成している。また、光音響分光にも成功しており、不透明な測定対象に対しても計測できる可能性を示している。
 追加目標として同期した白色パルス光源を採用して、感度を維持したまま分子スペクトルを波長掃印せずに得ることに成功している点、測定波長領域が目標1800 cm-1を超える3000 cm-1である点、実用試料表面の凹凸に対する位相補償対策を達成している点で、当初計画を上回る成果を上げている。また、試作機の実用評価研究を、医療分野や材料分野の複数の企業と実施しており、要素技術開発を超える展開を進めていることも高く評価できる。
 今後は実証実験を経て、画像判断の評価基準などを確立し、成果を論文発表することを期待する。本課題は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。