資料4

開発課題名「サブセルラー分析対応高解像度質量分析イメージング試料調製技術の開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成23年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  澤田 誠【名古屋大学 環境医学研究所 教授】
中核機関 :  名古屋大学
参画機関 : 
T.開発の概要
 本課題は、現状では解像度が300 μm程度である質量分析(MS)イメージングを、既存のケミカルプリンターとすでに開発した「特定細胞分析技術+座標再現機能」搭載レーザーマイクロディセクション(LMD)顕微鏡とを大きな改造を施さずに融合させることによって、普及型MALDI TOF質量分析装置に対応する汎用MSイメージングの1600倍高解像度化ユニットを開発し、病理診断や細胞診断、再生医療における単一細胞分析などの高精度MSイメージングに資する技術を開発する。
U.開発項目
(1)座標再現ステージによるケミカルプリンターの改造
 LMDステージ制御のドライバソフトウェアを新規に開発することで、ディセクションフィルム上の利用可能領域(3.5 mm x 3.5 mm)の原点(0,0)を一致させた時の最終点(3.5 mm,3.5 mm)でのずれを27±8μmにすることができ、目標を達成した。出力可変式レーザーとのマッチング、アラインメントを最適化することで、細胞下構造体(サブセルラー)のディセクション直径7.0 μmを達成した。ディセクション精度が向上したことで、フィルム上へのサンプル採取数は目標値225点を大幅に超える625点を達成した。
(2)特定単一細胞の同定とMS分析機能の開発
 ディセクションシステムの改良と自動化による操作の迅速化、分析プロトコールの工夫により、サブセルラーサイズである7.5 μm径のディセクション切片をRT-PCR解析して他細胞のコンタミがないことを確認できた。また7.5 μm径のディセクション切片からマーカーとするmRNAは100%の精度で検出できた。
(3)MSイメージングの条件の最適化と差別化
 マトリックスについては、15種類のマトリックス成分を用いて生理活性ペプチド5種類およびアミロイドペプチド4種類について検出を行い、この目的に適合するマトリックスを2つに絞り込んだ。残りのマトリックスについてはそれぞれ特徴的なイオン化補助能を持っている事がわかり、弁別的な分析を行う場合、他の夾雑する分子の影響が抑えられる効果を得た。
 実試料によるMSイメージングについては、ミクログリアを含む脳切片のアミロイドβ1-40、同1-42、ATP、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、サルファタイド、GABA、ピロカルピンなど7種類の物質について質量分析イメージング画像を取得できた。また、薬剤投与により未同定の分子の経時的変動を質量分析イメージング画像で表示することに成功した。
V.評 価
 普及型MALDI-TOF-MS装置を用いて、サブセルラー分解能を持ち、3次元イメージングも可能な質量顕微鏡を実現するための試料前処理装置を開発した。以前にチームリーダーが開発した「特定細胞分析技術+座標再現機能」搭載レーザーマイクロディセクション顕微鏡と(マトリックス塗布用)ケミカルプリンターとを組合せることによって実現した。本システムの特長は、分子量15000 Da までの生体高分子分布(2次元および3次元)がイメージング可能な点である。開発は順調に進捗し、数値目標は全て達成した。またアルツハイマー病モデルマウスの海馬内のアミロイドベータ(Aβ)単量体および二量体の分布の3次元イメージングに世界で初めて成功した。レーザーマイクロディセクションには特殊な熱溶融フィルムを用いて試料を固定化しているので、得られた画像はフィルム物性と固定化操作の「フィルター」のかかったものである。この特殊フィルムは、様々な物性をもったフィルムができる点がメリットである。実際、血液中微量Aβを、バックグラウンドを激減させることにより検出するという顕微鏡以外の応用にも成功している。本課題は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。