資料4

開発課題名「対称を利用した蛋白質結晶化促進タグの開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  姚 閔【北海道大学 大学院先端生命科学研究院 教授】
中核機関 :  北海道大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 X線結晶構造解析法は、タンパク質分子の立体構造を原子の分解能で正確に決定するための最も優れた方法だが、結晶化という障壁を乗り越えなければならない。一般に、対称性の高い分子は結晶化確率が高いことが、理論的にも統計的にも証明されている。この事実に基づき、本開発では、タンパク質分子を2量体化あるいは3量体化することで分子に2回あるいは3回軸対称を付与し、結晶化を促進するような要素技術(ペプチド性タグ)の開発を目指す。
U.開発項目
(1)2RS/3RS-tag の確定
 モデルタンパク質を用いて5種類のタグから選択した2RS1-tagの最適化を行った。2種類のモデルタンパク質のN末端に2RS1-tag、C末端側に変異型タグ3種類を融合させたコンストラクト(合計8種類)を作製した。タンパク質を発現させると、N末端に2RS1-tagを融合したサンプル以外の全てのコンストラクトにおいて、モデルタンパク質を2量体化させる能力を保持していた。さらに、各コンストラクトについて結晶化を行なったところ、変異タグに融合した2種類のモデルタンパク質はどちらも、タグ融合前より結晶の出現条件が増え、構造解析にも成功した。以上の結果から結晶化に最適のタグを確定した。
 3RS1-tagについても変異型タグ5種類を作製し結晶化を行った。その結果、元の3RS1-tagの結晶化能が最も高いことが分かった。さらに、新規coiled-coil型の2種類のタグ(3RS4-tagと3RS5-tag)を見出し、モデルタンパク質に融合させ、8種類コンストラクトを作製した。結晶化能を確認したが、C末端側に3RS4-tag、3RS5-tagを融合させたモデルタンパク質(MBP)は、単量体の状態で存在していることが分かった。また、3RS4-tag、3RS5-tagを融合させた別のモデルタンパク質については、384条件の結晶化を試みたが、結晶は得られなかった。以上の結果を総合し、3RS-tagに関しては3RS1-tagが最も結晶化効率が高く、最適化されたタグであると結論した。
(2)2RS/3RS-tag の有用性の評価終了
 2RS1-tagと2RS1R7L-tagを用いて、様々なタンパク質の結晶化を試みた。従来の方法によって構造解析に至っていないタンパク質9種類のC末端に2RS1-tagもしくは2RS1R7L-tagを融合させたコンストラクトを作製し発現・精製をおこなった。6種類について精製に成功し、安定な2量体を形成していることが確認できた。よって、2RS1-tagと2RS1R7L-tagは、モデルタンパク質以外のタンパク質においても多量体化させる能力を持っていると言える。さらに、上記で発現・精製に成功したタンパク質6種類の結晶化を行った。その結果、3種類のタンパク質で結晶が得られ、そのうち1種類で構造造解析を行った。
(3)成果の特許出願と実用化(製品化)へ向けた準備
 最適化された 2RS1-tagや3RS1-tagを含んだベクターについて、特許化を目指している。また、企業との連携による製品化に向け、展示会に参加し様々な企業と積極的に接触を図っている。
V.評 価
 2回あるいは3回回転対称ペプチドタグを融合させることで、単独では結晶化が難しいタンパク質の結晶化を促進させ、X線結晶構造解析のための質の高い結晶を得ることができる技術を開発、確立するのが本課題の目的である。結晶化に適した2回および3回回転対称ペプチドを選び、実際にこれまで構造が解かれていないタンパク質の結晶化および、X線結晶構造解析に成功するなど、開発目標を達成した。本開発プログラムの成果について国内だけでなく国際特許の出願も行っているが、更に特許戦略を明確にし、今後は適切な連携企業を選択し、製品化に向けて努めることが望まれる。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。