資料4

開発課題名「波長角度同時分散型時分割X線反射率計の開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  松下 正【高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 名誉教授】
中核機関 :  高エネルギー加速器研究機構
参画機関 :  東京学芸大学、近畿大学
T.開発の概要
 薄膜の厚さ、薄膜表面垂線方向の精密電子分布、表面・界面の粗さなどのナノ〜サブナノメートルスケールでの構造評価に広く利用されているX線反射率測定法において反射率曲線全体を同時にかつサブ秒〜ミリ秒の時間分解能で連続的に測定できる新しい時分割X線反射率計を開発する。これにより薄膜などにおける環境の急激な変化や外的刺激による構造変化の実時間追跡を可能とし、機能性薄膜や表面・界面での機能出現と構造変化の関連を動的に研究する手段を提供する。
U.開発項目
(1)同時測定可能な移行運動量qの範囲の拡大
 目標とした、X線ビームのエネルギーの変化:中心エネルギーに対して10 %、試料に対するX線ビームの視斜角の変化の範囲:0.8度以上を達成した。実際、シリコンウェーハの場合に試料に入射する集束X線ビームの一方の端から他方の端までエネルギーは16.9keVから20.5keVまで変化し、X線ビームの試料に対する視射角は0.04°から1.24°まで変化して、移行運動量qは0.01-0.45/Åの範囲をカバーし、X線反射率曲線の解析に十分な範囲をカバーできている。
(2)反射率の測定下限を低下、時分割測定の実現
 反射率の測定下限:R〜1.0X10-8、時間分解能1秒での測定可能な反射率の下限:R〜5.0X10-8、時間分解能0.01秒での測定可能な反射率の下限:R〜1.0X10-6いずれもシリコンウェーハを試料として検証しており、当初目標をほぼ達成している。
(3)試料環境の制御
 試料位置の周りでの自由空間の大きさ:直径30cm以上の円筒状の自由空間の確保について、X線のフォーカス周辺に直径25cm〜28cm程度の自由空間を確保し、光応答高分子LB膜試料に紫外光を照射するための光学系、固液界面実験用の試料セルと電圧印加電極端子、水面上での球状タンパクの挙動研究用のトラフなどを設置し応用実験を展開しており、ほぼ目標を達成した。
(4)実際に時間変化している試料からのX線反射率曲線の時分割測定
 気液界面における球状タンパク質の吸着を時間分解能1秒で測定し、光応答高分子LB膜を時間分解能1秒での測定しており、当初の目標を達成している。
V.評 価
 X線分光技術の高性能化を目標とした開発で、高速計測(時間分割の計測を含む)、および分光計(反射率測定用)の高機能化を目指したもので、ほぼ目標通りの成果を挙げていると判断できる。ここでは、独自の波長角度同時分散ポリクロメーターを用いることによって、X線の反射率曲線全体を同時にかつサブ秒〜ミリ秒の時間分解能で連続的に測定できる新しい時分割X線反射率計を開発し、薄膜などにおける環境の急激な変化や外的刺激による構造変化の実時間追跡を可能とした。また放射光以外の実験室X線源が利用可能であることも検証している。本技術をさらに発展するためには、今後の応用展開が必要と思われる。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと考えられる[A]。