資料4

開発課題名「生物画像のオーダーメイド分類ソフトウェアの開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  馳澤 盛一郎【東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  東京理科大学
T.開発の概要
 生命科学・医学における撮像技術の発達と画像の多様化・多量化によって、汎用性の高い画像評価法が研究・応用現場の緊急ニーズとなっている。オーダーメイドな画像評価システムを目指し、進化型計算と自己組織化写像を用いて、人間の判断に匹敵する高い可塑性を備える自動画像分類法を開発する。本手法が、画像診断や化学物質影響評価・創薬スクリーニングなどの現場で広く普及することが期待される。
U.開発項目
(1)局所特徴抽出器の開発
 抽出する特徴数については、グレイスケール画像に対して輝度の分布,エッジやコーナーの密度と方向、テクスチャなど 5,024 個の特徴を抽出する局所特徴抽出器を実装できた。カラー画像に対してはその3倍の 15,072 個の局所特徴を学習時に利用可能であり、目標値を達成した。
 処理精度については、それぞれ交差検定法により、MRI画像群(マウス個体中の組織画像からの癌種別の識別)について 99.6 % , 蛍光画像群(HeLa細胞の核・染色体蛍光像からの細胞周期の識別)について95.1 %,発光画像群(マウス個体のルシフェラーゼ発光像からの体内局在パターンの識別)について91.7 %,明視野画像群(HeLa細胞の明視野顕微鏡像からのアポトーシスの識別)について98.1 %と判定され、いずれの画像種別に対しても設定目標を達成した。
(2)マルチバンド画像対応
 色空間における座標については、RGB、 CIEL*a*b* や HSV色空間上での特徴抽出を可能とし、座標軸の数は合計20に及び、目標を達成した。
 領域抽出に要する時間については、赤外領域用カメラを用いて得られたマウスの動画像(640×480画素、約25,000フレーム)からの個体追跡に適用し、処理速度として 28 ミリ秒/フレーム自動領域抽出ルーチンを作成することができ、目標を達成した。
(3)PSO(Particle Swarm Optimization法)ならびにEvolving Treeを用いた特徴選択器の高速化
 MRI画像群(268枚)に対する学習所要時間については、 Evolving Tree による一次クラスタリングと PSO による最適化の導入を通して,開発着手前の 442 分から 13.5 分へと短縮することができた。
 分類速度については、 Random Forest 法から派生した Extremely Randomized Trees 法を用いることで 0.72 秒/枚 を実現した。これにより設定目標を達成した。
V.評 価
 セキュリティ関連等の必要性から、多量の画像のコンピュータによる自動認識の技術が非常に発展してきた。認識と分類はほとんど同じ概念であるので、生物学や医療における多量な画像の分類へこの技術を移転できるはずである。バイオイメージングによって得られた膨大なデータを分類する技術は医療においても重要である。本開発課題はバイオメディカル画像と一般画像との違いを十分に考慮して、この技術移転を世界に先駆けて行ったものである。画像の可能な特徴量を大量に用意しておき、分類対象に応じて分類に最適の特徴量セットを、自動的に選び出す。この特徴量セットを用いて多量の画像を高速に高精度で分類する最適アルゴリズムも見出した。開発の数値目標を全て達成したこのシステムをCARTAと名付けたソフトにまとめ上げている。リーダーは植物学が専門であり、植物学関連の研究に適用し、多くの興味深い実施例を発表している。また、研究協力者によって画像診断や動物学への適用例もあり、「オーダーメイド」性を具体的に示している。本ソフトを組み込んだ研究用機器の商品化は具体的に進行中である。本チームは画像ビッグデータ時代の、急速に発展しつつある画像解析技術を的確にキャッチアップしており、今後もCARTAをバージョンアップしていくことを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。