資料4

開発課題名「キラルアイスクロマトグラフィーの開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  岡田 哲男【東京工業大学 大学院理工学研究科 教授】
中核機関 :  東京工業大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 本課題では、化学反応を全く介さないキラルカラムの調製を実現し、安価でリサイクル可能な環境調和性の高いキラルカラムの多量供給を可能とし、さらに従来よりも高いキラル選択性をもつクロマトグラフィー固定相を実現する。アイスクロマトグラフィーを基礎とするキラル氷固定相の開発とその有効な使用方法の確立によりその目標を達成し、さらにその機能、適用範囲、汎用性の拡大、実用性の向上を図る。
U.開発項目
(1)キラルアイスカラムの開発と検証
 キラルアイスクロマトグラフィーについては、シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、銅イオン-アミノ酸錯体、ジイソプロピル酒石酸アミド、プロリン、塩基性ロイシンなどでキラル分離可能であることを実証した。また、分離機構に基づいて、液相内認識するものと、表面認識するもので分離条件設定を可能にした。特に、シクロデキストリン、塩基性ロイシンではUV検出でキラル分離が確認できる程度(前者では分離度1程度後者では0.8程度)にまでキラル分離できる物質が見つかった。この点で、キラルアイスクロマトグラフィーの有効性、特に有効なキラルセレクタの探索法としての有効性が示された。
(2)コンポジットキラル氷固定相の開発
 *アキラル系での分離
・コンポジットカラムの調製法は、オフラインでの調製法とオンライン(基盤固定相充填後にキラルセレクタを担持)調製法の2つの方法を確立した。
・上述の方法を用いて、水および氷を担持したコンポジット固定相を調製し、アキラルな物質10種類以上についてその保持特性を検討した。その結果、固定相への吸着と水への分配により定量的に保持を議論できることを確認した。また、氷が担持されている場合は水への分配がなくなるために保持が減少するが、氷が共存する液相には保持が強くなることを見出した。これは氷と水が共存する系が実分離に有効であることを示唆する新しい知見である。
*キラル系での分離
・コンポジットキラル氷固定相を検討する過程で、バンドブロードニングの原因を解明し、これまでのコンポジットカラムのコンセプトでは問題解決ができないことが判明した。そこで、新たにシリカゲル-ODS混合固定相をベースにコンポジットキラル氷カラムの実現を目指した。その結果、低温では分離選択性が高くなるが、必ずしも低温、凍結が必要ではないことが判明した。そこで、常温で複合固定相コンポジットキラルカラムを用いる実験を進めた。β-シクロデキストリン(βCD)に加えて、2-ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、それらにプロリンや尿素などを加えた3元系キラルカラムを実現した。
・上述のカラムでは、通常の15 cmカラムで840段、1 mでは5600段の理論段数を可能にし、これまで以上に多種のもののキラル分離に適用可能であり、分離度が概ね1以上を与える例を多数見出した。
*分取系への展開
コンポジット固定相の実用性を高めるための研究に注力したため、分取系への展開に着手する時間がなく、十分な検討はなされていない。しかし、複合型コンポジットキラルクロマトグラフィーは、アキラル系でのコンポジットカラム調製を併用することで、容易にスケールアップが可能である。
V.評 価
 本提案は、ミクロ領域に氷と水が共存するキラル溶質と非水溶媒との界面の分配現象を原理としている。分離能を高める要因が氷の存在にあることを複数の溶質で検証に成功し、要素技術確立に必要な温度領域や非水溶媒へ水分含有の必要性など各種の条件を明確化した。さらに、従来困難であったキラル物質の分離の可能性を示した点で評価できる。また、システム開発に進むには再現性やシステム制御面に課題があるが、この対処のため、シリカゲル表面のミクロ領域にキラル物質溶液を個別に担持した、凍結を要さないコンポジットキラルカラムを新たに開発しており、この方式により研究者向けのシステム展開の可能性を見出していることも評価できる。これらの経過から、本開発は当初の開発目標である、化学反応を全く介さないキラルカラムの調製を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。