資料4

開発課題名「タンパク質−化合物複合体立体構造解析の自動化技術開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  楯 真一【広島大学 大学院理学研究科 教授】
中核機関 :  広島大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 従来の核磁気共鳴法(NMR)を用いたタンパク質−化合物相互作用解析では、化合物結合によりタンパク質構造変化が誘導される場合や、溶液中でのタンパク質立体構造が結晶構造と異なる場合などに正確なタンパク質−化合物複合体構造解析ができないという問題点がある。本開発では、タンパク質−化合物複合体の立体構造を高効率・高精度に決定するソフトウェアを開発する。これにより従来のNMRの限界を超える画期的構造解析装置の実現が期待できる。
U.開発項目
(1)タンパク質-化合物複合体立体構造解析自動化プログラムの開発
 2次元NMRスペクトルを主鎖シグナル帰属と共に入力することで、目視では明瞭に判断できないような隠れた信号を自動的に発生させ、正確な化学シフトの読み取りを可能とした。S/Nが10倍以上のデータであれば適用可能であることを確認した。  NMR立体構造解析で標準的に使われるXPLOR-NIHを使って、DIORITE法で用いる観測量DdTROSYを直接構造制約として構造精密化計算に利用可能な機能(サブルーチン)を作成した。また、この計算に必要となる化学シフト異方性テンソル量についても最適化し、高精度の構造解析を可能とするパラメーターを確立した。立体構造計算には,擬化学シフト異方性テンソル(pCSA)という概念を使い、計算効率を上げることに成功した。さらに、NMRシグナルの自動読み取りプログラムと化合物複合体構造計算のための初期構造としてのタンパク質座標データから、直接XPLORの入力ファイルを作成するプログラムを作成した。
(2)分子配向条件最適化計算プログラムの開発
 アクリルアミドゲルの内部構造をタンパク質が入り込めない不可侵領域(ダマ)とそれをつなぐ繊維構造として表現する数理モデルを構築した。このダマと繊維で表現できるモデルを用いて、20種類のアクリルアミド組成で測定されたタンパク質(ユビキチン)の分子配向強度を再現できるシミュレーション技術を確立した。化合物複合体構造解析の対象となるタンパク質構造(PDB座標)を入力情報とすることで、望む分子配向強度を実現するアクリルアミドゲル組成の予測を可能とした。
(3)核内受容体PPARγを対象とした開発システムの実証実験
 結晶構造解析が解かれているアゴニストBRL結合状態のPPARγの立体構造解析を開発した技術を用いて実証実験を実施した。化学シフトに基づいた主鎖骨格構造の情報似加えて、DIORITE法から得られる構造情報により、従来のNOEとスピン結合による立体構造解析技術では不可能であった30kDaを超えるタンパク質−化合物複合体立体構造決定を実現した。
V.評 価
 本課題は、独自に開発したタンパク質立体構造解析技術であるDIORITE法をタンパク質−化合物複合体の立体構造解析にルーチンに使えるように自動化し、創薬やケミカルバイオロジー等へのツールを提供しようとするものである。計算生物物理学の手法を駆使することにより、当初の目標に掲げたすべてのソフトウェアを完成させた。また、従来のNMR解析技術では不可能であった高分子タンパク質の立体構造を決定することにも成功した。優れた解析技術として普及させるため、オープンソース化を含めた今後の発展に期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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