資料4

開発課題名「高効率・高品位タンパク質結晶生成システムの開発」

一般領域 機器開発タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  和田 仁【(独)物質・材料研究機構 特別研究員】
中核機関 :  (独)物質・材料研究機構
参画機関 :  (株)清原光学、東京大学、味の素(株)、京都大学
T.開発の概要
 タンパク質機能を構造学的に解明できれば、ゲノム創薬、健康・機能性食品、低環境負荷型工業など広範な産業分野においてタンパク質利用の発展が期待できる。しかし、精密構造の決定に必須な高品位タンパク質結晶の作製に多大な時間と労力を要しているのが現状である。本開発では、磁気浮揚を利用した高品位結晶生成系にin-situ観察系を搭載した高効率高品位タンパク質結晶生成システムを実現する。
U.開発項目
(1)タンパク質結晶を高品位化する技術の開発
 約1,400 T2/mの磁気力を試料空間軸上20 mmに渡って発生し、直径40 mm×高さ16 mmの試料空間において磁気力均一度が±5%である超伝導マグネットを作製した。純水を磁気浮上させる検証実験の結果、実際に重力がキャンセルできていることを確認した。また、開発した高磁気力環境下における物質挙動についてシミュレーションを行い、高磁気力によりタンパク質結晶を含む溶液の対流を抑制できることを示した。
(2)タンパク質結晶の生成過程を可視化する技術の開発
 高磁気力場中で結晶成長過程をin-situ観察できる自動結晶観測装置を開発した。強い磁場内で動作可能であり、後述の結晶化プレートの任意位置をその場観察できる3軸制御の顕微鏡(ペリスコープ)を開発するとともに、全ての結晶化ウェルにおいて、個別の条件での逐次自動観測が可能な制御ソフトウェアの開発に成功した。試料空間の温度は空冷とし、4〜30℃で±0.5℃以内での制御を達成した。また、超伝導磁石ボア中に設置可能で、良好な光学特性を有する結晶化プレートを開発した。結晶化プレートは、それぞれ24の結晶化ウェルを有していることから、15段積層することにより、計360サンプルの結晶成長過程の同時観測が可能となった。
(3)産業用タンパク質および創薬関連タンパク質を含む難結晶化タンパク質の結晶化
 上記(1)、(2)で開発したシステムを用いて、20種類以上のタンパク質について結晶化を実施した。生成した結晶について、X線回折実験による結晶品質評価と構造解析を行った結果、従来の結晶化法に比べ、結晶の品質(モザイク性やX線回折分解能など)が改善していることを確認できた。膜タンパク質などの難結晶化・難結晶性タンパク質についても、結晶のモザイク性や等価な反射の一致度の改善が見られた。また、従来法に比べ、結晶生成の速度が減少し、良質な結晶の取得に重要な因子である単結晶の大型化という優位性が得られることも確認した。また、本装置開発の副産物として、磁場配向と立体構造の関係性を明らかにすることができた。
V.評 価
 高磁気力発生用超伝導マグネット、タンパク質結晶化用透明プラスチックプレート、並びにタンパク質結晶化過程観察用ペリスコープを開発し、組み合わせて、高効率・高品位タンパク質結晶生成装置を完成することに成功した。超伝導工学、光学及び生物学分野の研究者・技術者から構成されたチームが、それぞれの得意分野での能力を存分に発揮した成果である。既に、結晶化が難しいタンパク質を含めた各種有用なタンパク質の結晶化にも成功した。ただし、磁気力による対流抑制の効果が、結晶の高品位化にどのようなメカニズムによってどれほど寄与したかについては更なる検証が必要である。その検証結果を踏まえ、結晶化の成功率向上、結晶品質向上方法を系統的に検討し、本装置の実用化に向けた開発を継続することを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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