資料4

開発課題名「ラジカル測定用時間分解ATR−FUV分光システムの開発」

一般領域 機器開発タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  尾崎 幸洋【関西学院大学 理工学部 教授】
サブリーダー :  東 昇【倉敷紡績(株) 技術研究所 主任研究員】
中核機関 :  関西学院大学
参画機関 :  (独)農業・食品産業技術総合研究機構
T.開発の概要
 近年、ラジカル種の酸化還元力を半導体洗浄プロセス、食品の殺菌洗浄、環境汚染物質の分解処理などに利用する技術の重要性が高まっている。本開発では、水の遠紫外(FUV)分光スペクトルがラジカル生成によって変化するという独自の発見に基づき、水溶液中で起こるラジカル反応を追跡可能な時間分解ATR−FUV分光システムの実現を目指す。この方法では溶媒そのものをプローブとして利用するため、ラベルフリーでラジカル濃度を測定することが可能となる。これにより、最先端の半導体洗浄プロセスにおけるラジカル測定など、ものづくり現場での具体的ニーズへの革新的な応用が期待される。
U.開発項目
(1)時間分解ATR-FUV分光システムの改良
 信号のS/Nを向上させるため、時間分解ATR-FUV分光システムに対して、励起光が試料セル上面を透過できるよう新たに設計したATR試料セルの導入、分光器を励起光が照射されるATR部とPMT検出器の間に配置、光量の大きいプローブ光源(レーザー励起キセノンランプ)を導入した。この改良により、パルスレーザー由来の迷光シグナルは低減し、プローブ光のシグナル強度は大きくなり、得られる信号の感度は吸光度の標準偏差にして約0.001となった。フォトカウンティングシステムを用いることなく十分なS/Nでスペクトル測定が可能となり、測定の設定数を大幅に減少させることができた。
(2)時間分解ATR-FUV分光システムによるOHラジカルの測定とその特性評価
 改良した時間分解ATR-FUV分光システムを用いて、オゾン水の266nm励起過渡吸収スペクトル(170〜185nm)を測定した。パルス励起光照射直後に0.001程度の過渡吸光度が170〜175nmの波長領域で観測され、その緩和時定数は数十μsであった。また同システムを用いて、透過法でオゾン水の時間分解FUVスペクトル(190〜225nm)の測定を行った。オゾン水光反応のラジカル連鎖反応キネティクスを解明するため、測定された過渡吸収スペクトルを多変量カーブ分離(MCR)法で線形分解した。解析結果から、本実験条件(オゾン濃度0.5mM,pH5.2)では、数十μMのHO2、あるいはOHラジカルが数十μsの時間スケールで生成していることが分かった。時間分解FUV分光システムで捉えられたラジカル測定の最適条件パラメーター(測定波長、時間スケール)を元に、実用機の仕様を確定した。
(3)時間分解ATR-FUV分光分析技術の応用開発
 中核機関によるオゾン水光反応実験で決定されたラジカル測定の最適条件パラメーターを元に、水中ラジカル濃度のリアルタイムモニタ実用プロトタイプ機を試作し、実際の洗浄工程で用いる促進酸化水(オゾンとアルコール混合水溶液)で装置の評価を行った。生成したOHラジカル濃度に関するMCR法の解析結果は、化学分析(ジメチルスルホキシド法)の結果と相関を示し、洗浄プロセスにおけるOHラジカル濃度のリアルタイムモニタへの展開が可能であることを示した。ラジカル洗浄プロセスで必要とされているオゾン濃度やラジカル濃度を制御するという目的に、十分に適用できるシステムを構築した。
V.評 価
 全反射吸収(ATR)型遠紫外分光装置の開発で、当初の目標である洗浄装置から排出される水中のヒドロキシラジカル濃度測定に必要な感度仕様は達成している。また、光学系の小型化に成功したことは主として半導体のプロセスモニターとしての用途を加速するものとして評価できる。さらに、透過型遠紫外分光装置も開発し、サブナノ秒での時間分解を達成してラジカルを含む成分変化をモニターできることを実証した。今後は他の計測手法と組み合わせ、製品化の取組みを積極的に推進することを期待する。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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