資料4

開発課題名「顕微質量分析装置の実用化開発」

(平成21年度採択:プロトタイプ実証・実用化タイプ)

開発実施期間 平成21年4月〜平成24年3月

    
チームリーダー :  小河 潔【(株)島津製作所 基盤技術研究所 電子・イオンユニット長】
サブリーダー :  瀬藤 光利【浜松医科大学 医学部解剖学 教授】
中核機関 :  (株)島津製作所
参画機関 :  浜松医科大学、慶應義塾大学
T.開発の概要
本事業「機器開発プログラム」で開発した顕微質量分析装置は、試料を顕微鏡で観察し、その場で観察箇所の物質を質量分析することが可能であり、形態情報と質量分析情報を組み合わせた新しい分析手段を提供するものである。本開発では、この顕微質量分析装置の実用化に向けた分析機能の強化、解析ソフトの開発、装置のユーザビリティの改良およびアプリケーションの開発を行う。本装置は、医学研究や診断、創薬開発、さらに有機材料解析・検査への応用が期待される。
U.事後評価における評価項目
(1)分析機能の強化とユーザビリティの改良
 質量分析イメージの解像度、イメージ取得速度は目標を上回る、5μm以下、0.17秒/Pixel以下を達成し、その他の項目はすべて目標を達成した。ハードウェアでは、従来2台で制御していたPCを1台化し操作性を飛躍的に向上させた。また、分析制御を開発し、簡単な設定で、顕微鏡画像に正確に位置決めして分析できるデータ取得を可能にした。さらに、質量分析イメージングの巨大なデータを高速処理して表示できるデータ表示ソフトを開発し、分析機能を強化すると共に、放電時の誤動作対策などの改良も行い、信頼性の高い安定動作を実現した。
(2)アプリケーション開発
 医学・薬学分野を中心に、40例以上のアプリケーションデータを取得した。医学・薬学では、CHKB欠損マウスによる精神疾患の原因究明、ヒトがん肝転移モデルマウスによるがん組織中の代謝物の動きの解析などで、これまでに医学的にわかっていなかったことが数多く解明され、医学・薬学応用への有用性が示された。農学では、食品中の異物物検査や農産物中の栄養分の分布測定などへの応用の可能性、工学応用ではゴム製品などへの応用の可能性など、本装置が幅広く展開できる可能性が示された。
(3)試料前処理技術の開発
試料洗浄法により、従来凍結切片では分析が困難であったペプチドが分析できるなど、幅広い応用に結びつく前処理法を開発した。また、マトリクス探索を行い、顕微質量分析法に有効なマトリクスとしてDHAPを見出した。その他、蒸着法などの開発も行い、合計16例を実施した。ユーザーが容易にマトリクス塗布できる手法として、蒸着法を検討し、さまざまな実サンプルで高精細な質量イメージングが得られる結果を得た。この検討結果をもとに、自動で簡便にマトリクス蒸着が行える装置を開発した。
(4)データベースの充実とデータ処理技術の開発
 データベースの構築では、生物種、組織名などから、検出される物質を容易に検索できるデータベースを作成した。実際にデータベースへ物質名を登録するための分子同定も進め、当初目標の30種を上回る100種類の分子についてデータベースへの登録も完了した。データ処理技術では、膨大な質量分析データから有為なピークを抽出するためのデータ解析ソフトを開発した。主成分分析(PCA)、階層的クラスタ解析(HCA)、t/u検定法、サポートベクターマシン(SVM)、エントロピー評価、エネルギー密度の6つの手法について解析できるソフトウェアを作成し、これらの方法を合計20例のアプリケーションデータに適用し有効性を確認した。
V.評 価
高解像度光学顕微鏡で形態観察した試料をレーザーイオン化TOFMSでイメージングする装置の実用化を試み、レーザーイオン化を用いた商品機としては世界最高のレーザー集光径5μmのイメージ解像度とイメージ取得速度0.17秒/Pixel以下を達成した。また、マトリクス由来の信号を殆ど発生しない物質としてDHAPを見出し、分子データベースの構築を含め、今回開発した装置が多様な試料の高解像度顕微質量分析イメージングに適用できることを実証した。また、発生するエアロゾルを補修するフィルタシステムなど計画外で製品として必要とされる機能なども実現した。本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。


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