資料4

開発課題名「高次ナノ構造・酵素を利用した迅速・高感度な農薬センサの開発」

(平成21年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成21年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  花岡 隆昌【産業技術総合研究所 コンパクト化学システム研究センター センター長兼ナノポーラス材料チーム長】
中核機関 :  産業技術総合研究所
参画機関 :  (株)船井電機新応用技術研究所
T.開発の概要
安全・安心な生活実現のため、食品や環境中の残留農薬を迅速・高感度にその場で検出する技術が求められている。現在、残留農薬検査はガスクロマトグラフィー/質量分析法により行われているが、費用と時間を要するため、現場での検査には適していない。本開発では、ナノメートルの寸法で制御された高次ナノ構造体を酵素センサに応用することで、濃度1ppbの残留農薬を5分以内に確実に検出する革新的な小型センサを開発する。本技術は、現場でのスクリーニングを可能にし、食や環境の安全を守るキーテクノロジーとして期待できる。
U.事後評価における評価項目
(1)高次ナノ構造体の開発
 ナノ構造体は、シリカと界面活性剤を混合した前駆溶液を所定の細孔径を持つ陽極酸化ポーラスアルミナ膜の微細孔に流し込み、乾燥・焼成することで作製した。この際、界面活性剤のアルキル基鎖長、拡張剤の添加、前駆溶液調整条件等の制御により、界面活性剤にF127、前駆体の攪拌時間15時間、温度60度で目的とする構造の高次ナノ構造体を作製することに成功した。得られた構造は走査電子顕微鏡、走査透過型電子顕微鏡による観察、窒素吸着測定およびX線回折により、微細管径、微細孔径、均一性、規則性が設定目標とおりであることを確認した。
(2)酵素固定化プロセスの開発
作製した高次ナノ構造体の微細孔内に酵素アセチルコリンエステラーゼ(AChE)を固定化し、高密度で効率的な固定化技術の開発を実施した。AChE濃度に応じて担体への吸着量が増加し、約0.34wt%で飽和した。吸着されたAChEは担体から流出しないこと、吸着量のバラツキも±5%以下であることを確認した。さらに、酵素固定化高次ナノ構造体は、60日経過後も初期の80%以上の活性を維持していることも確認した。
(3)高性能農薬検出技術の開発
 バッチ法により農薬を検出するためのプロトコルを完成させた。電子伝達物質としてTCNQを用い、電解液成分量の最適化を行った。これらの検出法により、それぞれ濃度10ppbのカルバメート系農薬および有機リン系農薬を5分以内で検出することに成功した。
(4)農薬センサの開発および性能評価
 簡便性、価格等を考慮した上でディスペンス方式の検出部構造および使い捨て型の電極とし、回路等の試作を行い、最終的な検出センサ(サイズ5×5×5cm以内)を作製した。有機リン系およびカーバメート系農薬各3種類の農薬を用いて、本センサ試作品により濃度1ppbを5分以内で検出可能であることを確認した。
V.評 価
酵素を安定に且つその特性を十分に活かしたままで固定化可能な高次ナノ構造体を用いることにより、極微量の農薬を迅速で確実にその場で検出できる高性能なセンサを目指した要素技術開発である。ほぼ全ての目標値をクリアした結果、濃度1ppbの極微量な残留農薬を迅速・確実にその場で検出できる高性能な農薬センサが実現した。特に多孔体の開発と用途開発は意義が大きく、農薬センサとしての市場性のみならず、多様な展開も期待される。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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