資料4

開発課題名「スピン偏極イオン散乱分光 」

(平成20年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成20年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  鈴木 拓【物質・材料研究機構 主幹研究員】
中核機関 :  物質・材料研究機構
参画機関 :  (なし)
T.開発の概要
表面・界面の磁気構造の分析は、スピントロニクス開発などで強く要請されている。しかし、既存の分析法では表面敏感性や元素識別性の欠如により、この分析は困難であった、この分析を可能にする新手法として、偏極4He+ビームを用いるイオン散乱分光法(SP-ISS)を開発している。本開発ではSP-ISSの要素技術である「偏極4He+イオン源」を開発してビームの高偏極化と大電流化とを同時に達成することで、SP-ISSの実用化に必要な測定感度を実現する。
U.事後評価における評価項目
(1)1,083nmD0線(π+σ)光ポンピングの開発
 1083nmD0線光ポンピングシステムの開発に成功した。これにより、当初の開発目標であった光ポンピング速度を達成し、偏極He+イオンビームの発生にも成功している。また、大強度照射光領域においてビーム偏極率が低下する問題も解決しており、一定のビーム偏極率(約25%)が再現性良く得られる光ポンピングシステムを開発している。
(2)冷却型RFイオン源の開発
目標であった〈液体窒素温度77K〉を大幅に上回る5K程度の冷却性能を有する冷却型RFイオン源の開発に成功している。約20Kでの安定動作を実現した。
(3)偏極ビーム電流の向上(20nA以上)
ビームラインの排気特性を向上することより、2keVのビームエネルギーに対して設定したビーム電流の目標値20nAを大幅に上回る80nAを達成している。また、「ビームのエネルギー幅50eV以下」、「試料位置でのビーム径3mm程度」の目標値も達成している。
(4)高効率散乱イオン分光システムの構築
 パスエネルギー100eVに対して、エネルギー分解能50eV以下を実現する散乱イオン分光システムの開発に成功した。そして、Fe(100)表面で、10分以下の測定時間で、0.1%以下の精度でのスピン非対称率計測が可能なスピン偏極イオン散乱分光システムの開発に成功している。
V.評 価
イオン散乱分光法により表面スピン(磁性)を計測する新手法の開発である。目標とするスピン偏極度30%以上、電流20nA以上をほぼ達成し、Fe(100)表面を用いて再表面原子層のスピン状態解析を実現した。今後、より積極的な成果発進を通じてスピンエレクトロニクスに係わる極薄合金膜や極薄化合物膜の元素別スピン偏極度の分析に適用されるなど、本法の利用が拡大することを期待したい。本開発では、当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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