資料4

開発課題名「熱−熱外中性子用高効率シンチレータ検出器の開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  渡辺 賢一【名古屋大学大学院 工学研究科 准教授】
中核機関 :  名古屋大学
参画機関 :  東北大学
T.開発の概要
本課題では、中性子断面積の大きなリチウムを含んだ中性子用シンチレータ結晶の高品質化・大型化とシンチレーション発光特性の違いを利用した信号波形処理法に基づく中性子−ガンマ線弁別法の開発を進めることにより、熱中性子および熱外中性子に対し高い感度を持ちつつ、ガンマ線起因の信号を除去可能な中性子検出器を実現する。
U.中間評価における評価項目
(1)リチウム含有フッ化物系シンチレータの大型化・高品質化
 セリウム(Ce)等の賦活剤添加を行い、1 インチ径×4cm 以上かつ X 線ロッキングカーブ測定の半値幅 200 arcsec* 以内の結晶を作製すること目標とし、1 インチ × 8 cm長のリチウム化合物結晶を作成することができた。この結晶から一部切り出して測定した X 線ロッキングカーブの様子から、ガウス関数を仮定してフィッティングを行ったところ、半値全幅(FWHM)は約 25 arcsec と求まり、目標 (200 arcsec) よりも一桁良い値が得られている。
*角度の単位(秒)(=(π/648000) ラジアン)
(2)シンチレータ組成の最適化
 多くの希土類添加 リチウム化合物結晶を作製し、その光学的シンチレーション特性までの測定を行い、添加可能な Ce3+ の濃度は 4 mol% 程度であることが分かった。仕込み組成をこれ以上高めた場合には、結晶にクラックが入る、白濁するなどの問題を生じることが判った作製した化合物のみに留まらず、他の元素を添加したリチウム化合物結晶に関しても一部探索合成を行い、マイクロ引き下げ法で問題なく合成出来ることを確認した。
(3)信号処理法の最適化
減衰時間特性を用いた中性子−ガンマ線弁別法の最適化を行うため、高速デジタイザを用いたデジタル波形処理系を構築した。中性子とガンマ線を完全に弁別できる検出器では、中性子の検出効率を落とすことなく、ガンマ線の検出効率を0にすることが理想であるが、本開発では実結晶でCe濃度が2%のもので、中性子の相対的検出効率を90%に保った状態で、ガンマ線検出効率を8%まで減少させることができている。
(4)弁別性能の評価試験
整備された標準場においてCeとナトリウム(Na)を共添加したリチウム化合物の10×2.6×1 mm3結晶を用い、熱中性子感度および、ガンマ線/中性子線感度比を評価し、各々、8.9×10-2 cpsおよび9.2×10-7cpsとなった。4.3 μSv/h(熱中性子で156 個/cm2・s)の中性子場で中性子感度15 cpsが得られ、単位線量率あたりの値に換算すると、3.5 cpsとなり目標を達成できた。
V.評 価
原子力発電所等の施設で実践的に利用する中性子検出器の開発である。マイルストーンとした1インチの高品質の結晶成長が極めて順調に達成され、現段階で関心を持つ企業からの引き合いも多く、機器開発に近いレベルに達している。1インチ径の結晶に様々な希土類元素を添加したものでは着実に成果を上げており,今後2インチサイズへも展開できる。材料の知的財産に関し、代替元素の可能性を網羅することも精力的に行っており、成果の展開に際し充分な配慮がなされていると評価できる。今後、シンチレータ結晶のさらなる改良を進めるとともに、本シンチレータ検出器を搭載した装置が中性子検出器分野のさらなる発展に寄与することを期待し、着実に開発を推進すべきである[A]。


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