資料4

開発課題名「波長角度同時分散型時分割X線反射率計の開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  松下 正【高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
ダイヤモンドフェロー、名誉教授】
中核機関 :  高エネルギー加速器研究機構
参画機関 :  東京学芸大学
近畿大学
T.開発の概要
 薄膜の厚さ、薄膜表面垂線方向の精密電子分布、表面・界面の粗さなどのナノ〜サブナノメートルスケールでの構造評価に広く利用されているX線反射率測定法において反射率曲線全体を同時にかつサブ秒〜ミリ秒の時間分解能で連続的に測定できる新しい時分割X線反射率計を開発する。これにより薄膜などにおける環境の急激な変化や外的刺激による構造変化の実時間追跡を可能とし、機能性薄膜や表面・界面での機能出現と構造変化の関連を動的に研究する手段を提供する。
U.中間評価における評価項目
(1)X線ポリクロメーター用結晶ベンダーの完成と調整方法の確立
 本装置の光学系で基本となる結晶(シリコン)を彎曲し、かつ、ひねりを加えた形状にするためのベンダーを設計・試作・評価した。可変式あるいは固定式結晶ベンダーを用い、厚さ0.3mmの結晶を目標値を超えて彎曲し、かつ、ひねりを加えた計上にする(曲率半径最小2m、捻り角度9度)ことができた。この結晶にX線を照射し、集束状況を評価したところ、X線ビームサイズは結晶から41cmの距離で水平0.5mm、垂直0.5mm、43cmでは同様に水平0.8mm、垂直0.2mmとなった。水平方向のビームサイズがやや大きいが、試料表面上の広がりの影響は無視できる程度であった。
(2)反射率計の完成とこれを用いた静的試料からのX線反射率曲線の測定
高エネルギー加速器研究機構のビームラインにおいて上記結晶ベンダーを用い、中核機関が保有する装置を組み合わせてシリコンウエハ(001面)、シリコン基板上の金薄膜(15.4nm厚)、アゾベンゼンを含む光応答高分子の一分子膜(LB膜)のX線反射率曲線を測定した。これらの実験結果から、この装置での測定可能な移行運動量qは0<q<0.45Å-1、同様に反射率Rの下限値はおよそ3×108となり、目標を達成している。この結果を踏まえ、反射率計本体の設計を行った。本体は平成23年度後半に完成予定である。
V.評 価
薄膜や物質表面へ外的刺激を加えた場合の構造変化を追跡可能なX線反射率計の開発である。開発は順調に進捗し、固定式結晶ベンダーを用いて結晶に捻りと彎曲を行う方法が完成し、これを用いた反射率曲線の測定においても当初目標とした数値を達成している。東日本大震災の影響で高エネルギー加速器研究機構の実験がキャンセルされるなどの影響はあったが、チームリーダーの長年の経験とノウハウを踏まえて本方法を実証したことは評価に値する。今後は本方法による知的財産権を確保しつつ、実用的な装置として仕上げるよう、開発を着実に進めるべきである[A]。


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