資料4

開発課題名「多ピクセルTES型X線検出器の開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  前畑 京介【九州大学大学院 工学研究科 准教授】
中核機関 :  九州大学
参画機関 :  (独)物質・材料研究機構
(独)宇宙航空研究開発機構
T.開発の概要
高いエネルギー分解能を持ち、ほぼ全元素からの特性X線ピークを分離した測定が可能なTES型X線検出器の多ピクセル化に関する開発を行う。本開発は、検出器のデバイス、実装技術、X線集光技術を含んでいる。本開発により、分析電子顕微鏡用にこれまでに開発した単ピクセルTES型X線検出器(500cps)に対して4倍程度の計数率を達成することが可能となる。このことで、透過型電子顕微鏡でナノスケールの高精度な元素分布マップの取得が期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)X線集光技術の開発
 超伝導転移端(TES; Transition Edge Sensor)型X線検出器(以下TES)は、有感面積が小さく検出効率が低いので、X線集光素子としてX線ポリキャピラリレンズを用いて実質的な検出立体角を増大させる。次の条件でキャピラリ位置調整ステージの設計を行い、キャピラリ位置および検出器位置によるスペクトルの変化を測定・解析した。
(a)透過型電子顕微鏡(TEM)の真空中でのキャピラリの位置と向きが調整可能なこと
(b)キャピラリはX線発生点に対し、上下左右に1mm、光軸方向に10mm稼働すること
(c)ステージの精度は10ミクロン以下であること。
(2)多ピクセルTES型X線検出器の開発
 3×3+1構成にしたピクセルアレイ全面吸収体TESを試作し、検出器の動作温度を100mK(ミリケルビン)まで下げ,3個のSQUID(Superconducting Quantum Interface Device)アンプを駆動し、同時動作試験に成功した。800μAのバイアス電流では、検出信号の減衰時定数は100μsであり、1000cpsの計数率に相当し、700cps以上の計数率という設計目標値は達成できた。200μAのバイアス電流では、検出信号の減衰時定数が220μs、エネルギー分解能は5.9keV X線の全エネルギーピークの半値幅で150eVであった。
(3)超伝導フィルム配線技術の開発
3個以上のTESと駆動・読み出し回路を、スノート先端部の狭い領域(9mm X 9mm以下)に配線するための超伝導配線技術を確立することであり、ニオブよりもストレスに強い超伝導線材を用い、曲がった状態のフィルムに超伝導線のパターンを形成することで、内部応力が発生しないようにした。10ch SQUID駆動装置,12ch の信号処理装置(AD変換、パルス検出および最適フィルターによる波高決定のリアルタイムディジタル処理)に接続し、多ピクセル型TES同時信号読み出し実験を行い、そのうち、4個のTESの同時動作を確認することができた。
(4)小型・低重心冷凍ユニットの開発
GMクーラー(極低温冷凍機;Gifford-McMahon冷凍機)分離型無冷媒冷凍システムの希釈冷凍ユニットをベースに、新たにTEM搭載に最適な小型・低重心化構造を有する希釈冷凍ユニットを設計・製作する。希釈冷凍ユニットを小型化し、重量を15kg以下に抑えることができ、GMユニットとのフレキシブル配管接続位置を低くすることで重心を低くすることができた。冷凍機性能としては、100mKで冷凍能力20μW以上を得ることができた。
V.評 価
従来よりも高精度な透過電子顕微鏡に用いる検出器を目的とした開発である。試作した検出器は、従来型より一桁優れたエネルギー分解能(7eV)を単体で実現し、現時点でTEM用X線検出器として世界最高性能であることを示した。多ピクセルTESとX線集光技術の開発により、エネルギー分解能10eV以下が期待できる。今後、さらなる改良を進め、TESを搭載した装置が透過型電子顕微鏡のさらなる発展に寄与し、市場性を高めるよう、着実に開発を推進すべきである[A]。


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