資料4

開発課題名「キラルアイスクロマトグラフィーの開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  岡田 哲男【東京工業大学大学院 理工学研究科 教授】
中核機関 :  東京工業大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 本課題では、化学反応を全く介さないキラルカラムの調製を実現し、安価でリサイクル可能な環境調和性の高いキラルカラムの多量供給を可能とし、さらに従来よりも高いキラル選択性をもつクロマトグラフィー固定相を実現する。アイスクロマトグラフィーを基礎とするキラル氷固定相の開発とその有効な使用方法の確立によりその目標を達成し、さらにその機能、適用範囲、汎用性の拡大、実用性の向上を図る。
U.中間評価における評価項目
(1)キラルアイスカラムの開発
 これまでアイスクロマトグラフィーでキラル分離の実績があるβ−シクロデキストリン(βCD)及びその誘導体を用い、適用可能物質を探索した。βCDでは、ヘキソバルビタール、ビスナフトール、ビナフチルアミン、メチルマンデル酸の分離が可能であった。この際、塩をβCDと同時にドープすることによって液相の発達が促され、この液相内でキラル認識が起きる可能性につき検討した。また、βCD誘導体である2-ヒドロキシエチルβCDおよび2-ヒドロキシプロピルβCDを用いたところ、ネイティブβCDでは分離できなかった1-フェニル-1-エタノール、1-フェニル-1-プロパノールなどのキラル分離が可能となった。これらと並行し、酒石酸ジアミド、銅プロリン錯体をキラルセレクタとして検討した。これらのセレクタを用いた場合のキラル分離認識機構、キラルセレクタの分子配向や構造の影響につき検討した。
(2)コンポジットキラル氷固定相の開発
 シリカゲルで氷を支持したコンポジット型氷カラムの調整法を検討し、最適な調整方法を見出した。このコンポジット型カラムを用いて、水を保持したカラムでのアキラル系での分離機構・保持機構を検討し、10種類の化合物を試料として定量的に評価した。この結果から、シリカゲルに内包された水がバルク水とほぼ同じ物性となることを見出した。また、シリカゲルに担持した水を凍結し、10種類の物質を用いてその保持特性を検討したところ、-20℃から-10℃の範囲で氷と液相が混在しており、溶質の保持に際し、氷と共存する液相では特異な物性が示される可能性を提示した。
V.評 価
バイオ機能研究、医薬品および光学部材などの開発分野で必須の技術である化学物質の光学分離を安価かつ再利用可能な方法で行うことができる、アイスクロマトグラフィー用カラムの多量供給を可能とする要素技術開発を目的としている。氷粒にキラルセレクタを導入したものを固定相としてキラル分離を行う方法と、シリカゲルに水を担持し凍結したものを固定相として分離する方法の双方につき、分離可能な物質の探索と分離機能の確認を行い、分離機構の解明を検討した。前者の方法では従来の光学分離性能を越えるものがなく、また後者ではキラル系への展開の前段階であり、現時点で本方式が分離能において優れることを示す決定的なデータを得るには至っていない。キラル分離の原理については、氷と液相が共存した領域での知見は新奇なものであり学術的に大きな意義をもつデータを導出しているが、本プログラムの目的は実用化に資する分析方法の要素技術の確立であり、早期に分離性能と再現性に優れる物質と方法を見定め、分離機構の解明を進めてより一層効果的・効率的に開発を推進すべきである[B]。


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