資料4

開発課題名「光導波路素子を用いた高性能中赤外分光計測」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成19年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  佐々田 博之【慶應義塾大学 理工学部 教授】
中核機関 :  慶應義塾大学
参画機関 :  東京工業大学
T.開発の概要
気体試料中の微量分子成分を同定し、定量測定するためには中赤外領域の分光計測が有効である。しかしこの波長域には使いやすい分光用コヒーレント光源が少なかったのが現状である。2004年、近赤外光を中赤外光に高効率で変換する光導波路型非線形光学素子が我が国で開発された。本開発では、この新しい光学素子と、光共振器吸収セル、半導体レーザー、光ファイバーを組み合わせて、広い同調波長域、高分解能、高感度を併せ持ち、高精度、高速な計測が可能で、しかもコンパクトな赤外分光計を試作し、評価する。
U.事後評価における評価項目
(1)差周波光源の性能評価
 導波路型PPLN(Periodically Poled LiNbO3)にピグテイル、温度調整用サーミスターとペルチェ素子、シリコン製光学窓をモジュール化した製品を用い、位相整合条件を温度制御で達成し、2.6THzの同調可能周波数域を得た。また、ポンプ、シグナル光のファイバーカップラーを導波路型PPLNのピグテイルに直接融着したところ、ポンプ光70mW、シグナル光40mWの入力パワーに対して、差周波光300μWを得た。また、半導体レーザー光源は狭線幅DFB(分布帰還型)レーザー、外部共振器型レーザーを用い、それぞれ回路の制御等を行うことで、差周波光源のシグナル光源として使用可能であることを示した。
(2)光共振器吸収セルの性能評価
光共振器を構成するミラーを真空窓として使う光共振器吸収セルの製作については、協力企業と相談しながら進め、フィネス300以上、単純な吸収セルと比較して光電場増強率17倍、検出感度140倍を得た。低速大振幅と高速小振幅のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を2つ備え、掃引と周波数変調/制御に使うことができた。また、光共振器を構成するミラー間に真空窓を持った吸収セルを挿入した光共振器吸収セルについては、構造が単純になる一方、光は直線偏光に限られるので入射光と反射光を分離するのが難しく、光源の周波数を共振器の共振周波数に安定化することはできるが、応答時間が遅く、光源の狭線幅化は難しいことがわかった、シグナル光源をDFBレーザーとし、ミラーを汚染する試料で窓無し光共振器セルが使えない状況で役立つことがわかった。
(3)その他
  開発した分光計を用いて実サンプルの測定を行い、メタンの赤外遷移周波数の絶対測定等、いくつかの画期的な成果を得た。
V.評 価
分光学のうち、良い光源が無く、進捗が遅れていた中赤外領域の光分解分光法の実現を目指した分光計の開発が目的である。本開発成果により、分子の同位体存在比の測定に成功し、学術的には世界トップレベルの成果が得られている。レーザー等分光関連の製品が海外製に席巻されている現在、国産機器としてこの状況を打開する可能性を示した点は評価に値する。しかしながら、本成果でも、現時点では半導体レーザーや光検出器は海外製品で構成されており、光共振器吸収セルのみが国内メーカーの製品である。今後、本成果を用いて引き続き学術的な成果を上げるとともに、国産技術によって開発された優れた半導体レーザーを組み入れ、装置並びに測定方法の組合せ等も勘案した基本特許を取得し、当該分野の国産技術の養成、国産製品による市場確保が行われることを強く期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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