資料4

開発課題名「機能OCT網膜内因性信号計測システム開発」

機器開発タイプ(領域特定型)
【一般領域】人体内の臓器、病態、脳の高次機能浩三などの無・低侵襲
リアルタイム高解像度3次元観察、及び人体中の物質の無・低侵襲定量分析

開発実施期間 平成19年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  楠城 紹生【(株)ニデック研究開発本部 探索研究部 主席研究員】
サブリーダー :  角田 和繁【(独)国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター
視覚生理学研究室 室長】
中核機関 :  (株)ニデック
参画機関 :  (独)国立病院機構
(独)理化学研究所
T.開発の概要
脳科学分野の機能的OCTイメージングを活用することにより、非侵襲・他覚的に高精細網膜内因性信号計測が行えるシステムを開発し、高品位画像処理による網膜層構造(視細胞〜神経節細胞)各部の機能把握を目的とし、合せて各種精密パターン刺激(時間的・空間的)による視細胞部の錐体(R,G,B)及び桿体動態など多彩な検査データ抽出を課題とし、視神経機能実質における極早期診断を可能にして、将来の医療分野の発展に貢献する。
U.事後評価における評価項目
(1)ハイレベルOCT装置の開発
 光学配置を最適化した840nm光源SD-OCTを開発し、そこに眼底観察及び眼底OCTスキャン光導入部を含んだ眼底カメラ部、さらに光刺激用光源部を合体させることで実験装置を創り上げた。干渉波形の測定結果から分解能4.98μmを達成し、ゆらぎ幅は0.046%と目標の範囲内であった。また、眼底カメラが内臓するフラッシュを利用した光刺激機構に加え、各種の光刺激や波長選択が可能な光学システムを構築し、機能信号特性評価を行った。機能信号の抽出に当たり、震動や気温変動でOCT信号変動が生じることから光学機構を維持したまま装置レイアウトを変更し、実験環境の統一化を図った。
(2)診断用ソフト開発、サルによる信号取得及び健常人での信号取得
  OCT測定光の走査等の制御を行うためのソフトウェアを開発し、PCに搭載した。ソフトを制御するGUIを開発し、リアルタイムで網膜断層画像を描画できるようにした。ビデオレート50Hzで刺激前後10秒間(500枚)のOCT画像取得が可能となった。麻酔下のサルを用いて網膜内因性信号を取得し、プロトコルの適正化を図り、フラッシュ光刺激下で霊長類の視細胞から世界初の機能OCT信号を得ることに成功した。これらの成果を踏まえ、ヒト用に向けた適用条件を確認し、IEC(国際電気標準会議)・ISO規格に即した検証実験を行い、覚醒下でのヒト網膜機能計測を実現した。しかし、光刺激に伴う瞬目、眼球の過度の偏心、涙液の影響等から限られた被験者のみからの機能信号取得に留まった。
(3)網膜疾患を有する被験者における臨床試験
患眼における網膜機能計測を行うための対象者を抽出し、倫理委員会からの実施承認を得た。しかし、前述のように、健常者に対する網膜機能計測で安定した機能信号を得ることができず、患眼への適用には至らなかった。
V.評 価
OCT(光干渉断層計)の干渉強度変化を神経機能の空間分布に置き換える機能OCTという概念を応用し、網膜の深さ方向における神経活動(内因性信号)を非侵襲・他覚的に計測する新しい検査装置の開発を目標としている。プロトタイプとなるOCT装置を組み上げ、画像解析ソフトを開発して麻酔下のサルにおいて機能OCTデータを得るという世界初の成果を得たことは高く評価できる。しかし、開発メンバーの十分な努力はあったものの、最終目標としたヒト患眼のデータ取得までは至らなかった。今後は、中核機関である企業を中心として、ヒトにおける測定条件・環境の見直しを行い、早期に患眼への適用がなされ、本装置が実用化されることを期待したい。本開発は、実験動物段階までの開発目標は達成できたが、本来の目標であるヒトへの適用までは到達できなかったことから、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する[B]。


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