資料4

開発課題名「共鳴X線非弾性散乱シミュレーターの開発」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成20年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  林 久史【日本女子大学 理学部 准教授】
中核機関 :  日本女子大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
共鳴X線非弾性散乱(RIXS)からは、X線吸収微細構造(XAFS)の進化形である「寿命幅による分解能制限のない、化学状態を選別したXAFS(寿命幅フリー・状態選別XAFS)」が得られる。本開発では、「寿命幅フリー・状態選別XAFS分光法」の「操作性」を飛躍的に向上させるため、バンド計算の結果からRIXSをシミュレートするプログラムを開発する。
U.事後評価における評価項目
(1)共鳴X線非弾性散乱シミュレーターの開発
 チームリーダーが開発していた解析プログラムをもとに、バンド計算ソフト「WIEN2k」で計算した個々の選択的XAFSスペクトルと、個々のX線装置で測定した蛍光X線スペクトルを入力データとし、クラマース・ハイゼンベルク式を用い、共鳴X線非弾性散乱(RIXS)スペクトルを、励起エネルギーと発光エネルギーを変数とする二変数関数として計算できるものとした。また、RIXS の実験スペクトルもオンラインで読み込めるようにし、理論値と比較できるようにした。このシミュレーターは開発開始後1年間で完成し、Windows XP/Windows VISTAで動作するプログラムとして ウェブサイト上で無償公開した。
(2)標準物質に対する「寿命幅フリー・状態選別XAFSスペクトル」高精度計算
上記のWIEN2kを用い、シミュレーターの入力データとして必要な選択的XAFS理論スペクトルを求め、シミュレーターによってRIXSスペクトルに変換した。得られた変換スペクトルを既存の実験データと比較し、ユーザーに推奨する計算過程を見出した。10種類の結晶型、30種類の系について実験結果との対応を検討したところ、RIXSの状態敏感性が非常に高いため、現在の理論計算では実験結果を定量的に完全に再現することは困難とわかった。、そこで「RIXS スペクトルを最もよく再現できる、理論XAFS スペクトルを実験から求める機能」を追加した。これによって、半定量的ではあるが、「ありうべき選択的XAFSスペクトル」を推定することができるようになった。
(3)その他
  シミュレーターの公開に当たり、利用マニュアルをpdf版として日本語版、英語版の2種類整備し、インストーラーに組み込んで配布した。
V.評 価
X線分光領域で、励起エネルギーと発光エネルギー(共にX線)からクラマース・ハイゼンベルグ式に基づいて共鳴X線非弾性散乱スペクトル(理論スペクトル)を得て、実験で得られるスペクトルと比較できるパソコンレベルで動作するソフトウェア開発である。開発は順調に進捗し、当初予定としていたシミュレーターが完成し、30種類の標準物質に対して高精度計算を実行し、半定量的なレベルとすることができた。また、これを踏まえプログラムに追加機能を実装するなどの改良を加え、完成したプログラム(SIM-RIXS)をウェブサイトで無償公開している。今後はさらなる応用を目指し、標準物質だけでなく、実試料を用いた実験データを取得し、さらなるプログラムの改良が進むことを期待したい。 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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