チームリーダー : | 藤原 敏道【大阪大学蛋白質研究所 教授】 |
サブリーダー : | 穴井 孝弘【日本電子(株)NM事業部 ユニット長】 |
中核機関 : | 大阪大学 |
参画機関 : | 日本電子(株) 福井大学 |
- T.開発の概要
- テラヘルツ波照射によって低温電子スピンの巨大な分極を利用して蛋白質の超高感度固体NMRスペクトルを得る。この解析に、最近の構造プロテオミクス研究で充実してきた蛋白質NMRデータベースと、最新の計算機能力で可能になった多スピン系の量子力学計算を利用する。これにより、これまで単結晶X線回折などでの構造決定が難しいアミロイド蛋白質や膜蛋白質複合体の解析を行う。
- U.事後評価における評価項目
- (1)高出力テラヘルツ波光源の開発
- ジャイロトロンをDNP(動的核分極)-NMRへ応用し、約550倍の感度向上を達成した。今後、試料回転をさらに高速化すること等で感度向上が期待できる。また、0.4GHzで周波数可変範囲1GHzを達成した。DNP-NMRのサブミリ波出力をジャイロトロンビーム電流にフィードバックすることにより安定化した。高磁場DNPによる感度向上を実現・実用化したが、さらに改善の余地はある。
- (2)極低温テラヘルツ波照射高速試料回転NMR検出システムの開発
- テラヘルツ波NMRプローブを製作し、NMRの高感度化を達成した。Heガス制御システムについては真空断熱の問題があったが改良を行うことで、極低温試料回転を可能とした。また、30Kまで温度を下げることを実証し、数値シミュレーションと77Kでの試料回転を確認した。回転の安定度についてはさらに改善する必要がある。
- (3)超高感度NMRによる蛋白質構造解析
- 蛋白質多次元NMRシミュレーションプログラムを開発し、核・電子スピン二重共鳴実験の最適化を実施した。また、原子間距離及びNMRスペクトルからの分子構造決定プログラムの開発・応用を実施した。シミュレーションを踏まえ、DNP効率を最適化するラジカル試料系の開発を行い、感度を約550倍向上させた。生体系・蛋白質応用のラジカル試料系について、感度向上と分子構造情報を得ることができた。
- V.評 価
- ジャイロトロンを用いて600MHzのNMRを同じ位置、同じ磁場で励起してNMRスペクトルを測定し、蛋白質の構造解析を行うことができる機器の開発を目的としたものである。低温での試料回転については、計算上得られる値には達していないが、従来の550倍の感度を得るところまで、新機軸の計測原理で蛋白質の構造解析に利用可能な装置として完成した点は評価に値する。外部機関からの依頼測定も始まっていて、NMRによる蛋白質構造解析に注目が集まっている。今後は、装置のさらなる改良を進めるとともに、装置の共用を進めることで、本装置が蛋白質分野のさらなる発展に寄与することを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。