資料4

開発課題名「単一磁束量子信号処理の超小型中性子回折装置」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成20年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  藤巻 朗【名古屋大学大学院 工学研究科 教授】
中核機関 :  名古屋大学
参画機関 :  大阪府立大学
T.開発の概要
同位体10BによるMgB2中性子検出器は、従来の電離ガス中性子検出器と比べ、応答速度や空間分解能、大きさにおいて3桁優れている。本開発は、この特長を生かし検出器をマトリクス状に配置し、飛行時間法によるエネルギー計測に基づく超小型中性子回折装置を開発し、中性子装置の汎用性を向上させることを目的とする。そのためには、多検出器による高精度飛行時間計測を熱的擾乱がない状態で行うことが不可欠であり、単一磁束量子回路技術を導入して実現する。
U.事後評価における評価項目
(1)中性子回折装置内信号処理法の開発
 16個の検出器の出力をチューニングフリーで読み取るため、読み出しに用いるQOS(準1接合量子干渉素子)の回路パラメータを最適化した。また、実験データの収集を通じて信頼性の高い処理システムを構築した。実証実験の結果、読み出し感度が熱的極限値に近く、バイアス電流に対する動作余裕が大きい等の性能をもつ理想的QOSの開発に成功した、本システムは高速仕様で時間分解能20ns、J-PARCで用いるものでは500nsに対応できるようにした。
(2)MgB2検出器の開発
4×4CHのマスク作製を電子ビーム描画装置を用いて行い、素子のリード線の取り出し方式に工夫を加えた。また、200nmの成膜条件を参考とし、膜厚500nmの素子製作を行ったが、良好な堆積条件を維持できなかったこと、ドライエッチングの際、保護レジスト層が長時間のエッチングに耐えられなかったことから、このプロセスでは別の条件設定を検討する必要があることがわかった。
(3)中性子照射実験と評価
  パルス中性子源J-PARCの共同利用申請を行い、担当者と協議の上、仕様をJ-PARC向けに変更した。2回のマシンタイムの1回を問題点の抽出にあて、2回目で性能評価を予定した。施設内の電磁波雑音強度が大きく、対策を施した後、オフビーム実験で有効性を検証した。その後、パルスレーザーを用いて性能評価を行い、開発仕様を達成する見通しを得たが、震災の影響でJ-PARCが利用できなくなり、最終評価実施の見通しが立っていない。
V.評 価
分担開発者が開発した、高い原子核反応確率を有する同位体10Bを用いたMgB2超伝導薄膜細線による高速・高空間分解能の中性子検出器を用い、ヘリウム3を用いない冷凍機を装備した中性子回折装置の開発を目的としている。開発では冷凍機の振動対策等で遅れが生じ、加えて予定していたパルス中性子源での評価実験も震災の影響で延期されるなど、不幸な出来事が重なったが、中間評価での指摘を踏まえ、中性子の研究グループとの意見交換が実施され、本装置のメインユーザーのニーズを反映して仕様の変更が行われたことは評価に値する。今後、検出器の膜厚を厚くすることにより検出効率が上がることも期待され、J-PARCでの実用化など、本成果の性能を活かした方向に向けた新たな開発を行うことを強く期待したい。本開発は最終的なユーザーによる評価は未達であったが、当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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