資料4

開発課題名「生体・飲料・環境試料溶存イオン導入技術の開発」

(平成21年度採択:要素技術プログラム【一般領域】)

チームリーダー : 大平 慎一【熊本大学大学院自然科学研究科 准教授】
中核機関 : 熊本大学
参画機関 :  (なし)
T.開発の概要
 生体・飲料・環境試料の多くは固形物や高分子量物質を含むため、溶存イオンの直接測定が困難となっている。本開発では、このような試料の溶存イオンを抽出・濃縮し、イオンクロマトグラフや質量分析計に導入するインターフェースを提供する。これにより、イオンクロマトグラフィーによる陽イオン・陰イオンの同時分析や、血液・母乳・尿中などの各種有機・無機イオンの迅速一斉分析の実現が期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)イオン抽出技術の確立
 原試料から溶存イオンを抽出するデバイスの開発を行うにあたり、各溶液チャンネルの厚さや使用する膜について検討を行ってイオン抽出効率を高めた。標準試料溶液を用い、デバイス内の試料溶液の流速と印加電圧を最適化した。その結果、試料溶液が本デバイスを通過する6秒間で試料中の溶存陽イオン、陰イオン共に定量的に抽出することを可能とした。
(2)イオンクロマトグラフとのインターフェースの確立
 抽出水をイオンクロマトグラフに直接導入するためのシーケンスを確立した。一般的な無機イオンについて、上記デバイスによるイオン抽出に4分、各イオンの分離・検出までに15分間での測定を実現した。
(3)生体試料および環境試料の測定
 上記イオン抽出デバイスとイオンクロマトグラフィーを用いて生体試料及び環境試料の定量測定を行った。生体試料の例として尿から、環境試料の例としては河川水、雨水から無機イオンの測定を行った。それぞれの試料について10回の繰り返し測定を行った場合の標準偏差は、生体試料で4.9±1.6%、環境試料で5.5±2.2%であり、よい再現性を示した。
(4)その他
 評価委員会からの指摘に基づき、タンパク質や脂質などを多く含む実試料の例として、牛乳について同様の測定を行った。市販の牛乳3種類について無機イオンの定量を行った。本デバイスを用いて得られて結果は既存の無機イオン定量法で得られたものと比べて非常に良く相関していることから、本デバイスで牛乳中の無機イオンを定量的に測定できることを示した。
V.評 価
 生体試料や環境試料中の溶存イオン測定を、前処理無しに直接イオンクロマトグラフィーなどの分析装置に導入することを可能とするデバイスの開発を目的としている。開発は概ね順調に進捗しており、中間目標をほぼクリアしている。加えて本デバイスの実利用上の試験試料である牛乳からのイオン抽出能についても短期間で検証し、その利用可能性を示したことは評価できる。しかしながら、環境試料や生体試料の測定においては、遠心分離器などの既存機器を用いた前処理が従来から行われており、差し迫った市場ニーズが不明瞭である。現場において既存機器を本課題で開発中の新たなデバイスで置き換えるためには、同一試料について従来法との厳密な比較を行い分析結果が一致することを確認した上で、さらに、従来法を凌駕する性能や使いやすさを示す必要がある。したがって、本デバイスを利用すると想定できる分野のユーザーからの意見を入れ、応用分野を絞り込んだ上で、効果的・効率的に開発を推進するべきである[B]。


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