資料4

開発課題名「ラジカル測定用時間分解ATR−FUV分光システムの開発」

(平成21年度採択:機器開発プログラム(領域非特定型))

チームリーダー : 尾崎 幸洋【関西学院大学 理工学部 教授】
中核機関 : 関西学院大学
参画機関 :  倉敷紡績(株)
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
T.開発の概要
 近年、ラジカル種の酸化還元力を半導体洗浄プロセス、食品の殺菌洗浄、環境汚染物質の分解処理などに利用する技術の重要性が高まっている。本開発では、水の遠紫外(FUV)分光スペクトルがラジカル生成によって変化するという独自の発見に基づき、水溶液中で起こるラジカル反応を追跡可能な時間分解ATR−FUV分光システムの実現を目指す。この方法では溶媒そのものをプローブとして利用するため、ラベルフリーでラジカル濃度を測定することが可能となる。これにより、最先端の半導体洗浄プロセスにおけるラジカル測定など、ものづくり現場での具体的ニーズへの革新的な応用が期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)過渡吸収時間分解スペクトルの測定
 測定感度0.1absでのオゾン水の紫外光分解により発生するOHラジカルの過渡吸収スペクトルの測定を試み、測定波長を変化させつつ各波長における時間分解吸収スペクトルを測定可能であることはわかった。しかし励起レーザーの僅かな迷光によって励起光照射直後のプローブ光変化は観測できていない。年度内に対策を完了して全時間領域の過渡吸収スペクトルを測定する。
(2)水のATR−FUVスペクトルの測定
 サファイアATRセルで過去のデータと一致する吸収ピーク波長(純水で155nm、重水で152nm)が観測された。サファイアでは大きな吸光度が得られないため、セルの材質を石英に変えて吸収スペクトルのショルダー部を拡大することを検討した。また、石英ATRセル(内部反射3回)を使用して、吸光度1.0abs以上であることを確認した。
(3)水のFUVスペクトルがラジカル生成により変化することのESRによる検証
 スペクトル測定と同様の系から生成されるラジカルの同定・定量をESRにより実施した。フローセルおよびスピン定量の標準物質の導入により、一般的なスピントラップ剤で1ppmのOHラジカル量が定量できることを確認した。また、上記のATR−FUV分光装置でOHラジカルの測定を行った。過酸化水素水溶液中で、光解離によって減少した過酸化水素量と水の遠紫外領域の吸収バンドの変化量を対比することにより、間接的にOHラジカル生成量が測定できることを示した。
V.評価
 半導体洗浄プロセスや食品洗浄プロセス、環境汚染物質の処理などにおいて利用される水分子のラジカルを検出するための装置開発を目標としている。装置の開発は概ね順調に進捗しているが、遠紫外領域の水の吸収スペクトル変化とラジカル発生機構との対応関係、ESRや赤外吸収スペクトルとの対応関係、および水の構造変化、クラスターサイズとの関係などについては十分に解明されているとは言えない。本装置を実プロセスにおいて活用していくためには、測定原理を明らかにしておくべきであり、ラジカル生成における反応系の理論解析等につき、深く追求する必要がある。今後はこうした基礎的な部分を解明するとともに、本装置を実際に活用する現場を絞込み、効果的・効率的に開発を推進するべきである[B]。


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