チームリーダー : | 小林 啓介【(独)物質・材料研究機構 共用ビームステーション ステーション長】 |
中核機関 : | (独)物質・材料研究機構 |
参画機関 : | アルバック・ファイ(株) 名古屋大学 京都大学 大阪大学 奈良先端科学技術大学院大学 東京都市大学 (財)高輝度光科学研究センター |
- T.開発の概要
- ナノデバイス・ナノ材料の3次元化学結合状態を分析できる硬X線光電子分光装置を開発する。開発では、電子の脱出角依存性を試料の角度を変えることなく一度に測定できる広角度アクセプタンス対物レンズを使用する。さらに収束硬X線の試料上での2次元走査を加えて3次元化学状態分析を実現する。高密度集積回路、磁気薄膜電子デバイス等新規ナノ材料の分析装置として活用される。
- U.事後評価における評価項目
- (1)SPring−8ビームラインに設置する硬X線光電子分光装置の開発
- 27nmのオーバーレイヤーの下にある基板Siから、Si1sの信号が観測できた。試料表面上のX線スポット径1μm、空間分解能1〜10μm、エネルギー分解能は通常の測定モードで250meVであった。また、角度積分モードで、Au4fの信号では、スループットが100msec/スペクトルという目標値を達成した、角度分解能0.5°で±32°の範囲の脱出角度依存性を連続で測定可能とした。
- (2)CrKα線励起による実験室用硬X線光電子分光装置の開発
- X線エネルギー5.4keV、検出深さ20nm以上、2次元空間分解能の最高値10μm、エネルギー分解能0.5eV、Si1sの角度積分モードでスループットを30secとした。当初計画時にアナライザー入口での光電子取り込み効率の見積を間違えたため、スループットは当初見積よりも低くなった。対物レンズの集光特性を向上させ、光電子の収束スポットサイズを小さくする等の改善方法を検討中である。
- (3)硬X線励起による光電子分光法とラザフォード後方散乱(RBS)を組み合わせた深さ方向分析手法の高精度化、標準化
- 参画機関の東京都市大学における光電子信号の脱出角依存性データの最大エントロピー法による解析法の開発、京都大学における光電子の有効減衰長関数を用いたRBSと光電子信号の脱出角依存性を組み合わせた解析手法を開発した。これらの手法を適用し、Si−CMOSによるゲートスタックモデル試料を用いたSPring−8における実験によってデータを取得した。データは現在解析中で、目標の深さ分解能は達成できる見込みである。
- (4)強相関電子材料のデバイス界面電子状態検出手法の開発
- LSMO/Nb:STO試料への電場印加、およびNbドープしたSTO基板上の (Fe2.5Mn0.5)O4のマイクロパターンのマッピングを行った。データは現在解析中である。
- V.評価
- 硬X線を用いた深さ方向を測定可能な光電子分光装置の開発であり、SPring−8の放射光ビームを用いる大型装置と、新たな硬X線源を開発し、実験室用簡易型装置のそれぞれの開発を行った。両者とも光電子を対物メッシュレンズにより高効率で回収することによって高感度化を目指した装置開発には成功し、所定の目的は達成している。実験室用簡易型装置については市販可能な装置として期待されたが、高価となることが予測され、かつ商品化への有効性を示すデータは開発期間中には得られていない。今後は、光源及び光学系に改良を加え、未完成である光電子分光法とラザフォード後方散乱(RBS)を組み合わせた深さ方向分析手法の高精度を早期に完成させ半導体製造現場で実測可能な装置として市販されることを期待したい。
- 本開発は当初の開発目標を直接には達成していないが十分に高い性能を実現しており、本事業の趣旨に相ふさわしい成果が得られたと評価する[A]。