資料4

開発課題名「サブミリ分解能をもち拡張型高速PETの要素開発」

開発実施期間 平成18年10月〜平成22年3月

チームリーダー :  片岡 淳【早稲田大学 理工学研究所 准教授】
中核機関 :  早稲田大学理工学研究所
参画機関 :  (独)宇宙航空研究開発機構
T.開発の概要
 陽電子断層撮影(PET)はガンを早期に発見する最良の手段であるが、装置の大型化と高コストが広い普及を妨げている。本開発では、光増幅フォトダイオード(APD)を基調とした「拡張型PET」の要素技術を確立する。優れた光感度をもつAPDを64chないしは256chに配列化し、新開発の専用LSIと一体化することで、今までにない小型かつ高感度の撮像素子が作られる。PETの理論限界に匹敵するサブミリ程度の分解能に迫ることが可能となり、小さな腫瘍の発見や小動物の脳内代謝カメラとしても応用が期待できる。
U.事後評価における評価項目
(1)2次元撮像素子APD−arrayの開発
 世界最大級となる3種のリバース型APDアレー及び専用セラミックパッケージを製作した。16x16chアレーはピクセルサイズを 1x1mm2 に小型化し、APDアレー全体のゲイン一様性は±10%程度、暗電流も0.3nA 以下の優れた特性をもつ素子を製作し、組み上げの簡便性を考え、APD素子としては初めて「カセット型(コネクタ対応)」を開発し、多チャンネル信号の読み出しを行った。16x16chのAPDアレーを用いた実証試験では、断面方向・深さ方向ともに0.9mm (FWHM)のサブミリ解像度を達成した。
(2)APD専用低ノイズLSIの設計・製作
 集積度の高いver.2素子 (32ch対応)を開発した。低温焼成の新しい小型セラミック(LTCC)パッケージを独自に開発し、ノイズ性能、時間応答ともにシミュレーションどおりの性能を達成することを実証した。単素子LYSOシンチレータ、APDとあわせた評価では 511 keVガンマ線に対して過去最高の9.7%(511 keV, FWHM)を記録した。信号時間応答(整形時定数)は 0.1μs/event,同時トリガは32ナノ秒以下を実現し、PETで要求される高レートに耐える仕様が得られた。
(3)APD−PETユニットの「純国産化」の検討
 本プロジェクトで用いているLYSO結晶(フランス製)に代わり、国産シンチレータ (Pr:LuAG)の使用可能性を検討した。APDアレーでLuAGシンチレータが正しく読み出せることを示し、この結果を受け、古河機械金属を代表とする新たなプロジェクトがスタートした一方で、現状のAPDアレーをそのまま用いる際に量子効率が稼げない問題点を指摘する「紫外高感度型APDアレー」の着想に至った。
V.評価
APDアレーによる撮像により、点線源に対して中心部で1mmを切る分解能を実現したことは評価できる。当初目標とした検出器性能および回路系を達成し、一部は事業化まで視野に入れており、優れた成果を挙げた。γ線2D検出器として商品化すれば、その波及効果は大きく、ある形を持つ線源に対してどれだけの精度で再現されるかが鍵であり、本成果はこの点でも従来のフォトマルよりも優位と想定されるが、その実証をする必要がある。また専用LSIによりTOFが可能な時間分解能をもつとのことであるが、これも併せて利用したとき、トモグラフィとしてどの程度の性能を持つかが今後の課題である。
本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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