チームリーダー : | 山中 千博【大阪大学大学院 理学研究科 准教授】 |
中核機関 : | 大阪大学 |
参画機関 : | 九州大学 北里大学 (株)キーコム |
- T.開発の概要
- 表面検知型の高感度電子スピン共鳴(ESR)共振器の完成を目指す。特に、マイクロストリップライン共振器に着目し、その素子先端におけるevanescentな電磁場を用いる技術の可能性を追究する。最終的にはこの要素技術を用いて小型軽量のESR装置を開発し、これを生体ラジカルの連続観測装置、in vivo被曝線量測定装置、小型ESR顕微鏡・イメージングデバイス、宇宙衛星搭載機器といった幅広い応用計測に向けて役立たせる。
- U.中間評価における評価項目
- (1)マイクロストリップ共振器の開発
- 新たな表面検知型ESR用共振器としてXバンド(9Ghz帯)のマイクロスプリットライン(MSL)共振器の開発を進めた結果、従来型pinhole共振器の約1000倍の高感度に相当する1011スピン(DPPH試薬換算)がSN比5以上で測定可能な「折り返し型MSL共振器」の開発に成功した。また、MSL共振器と同軸のカップリング機構として、同軸スタブ型整合器も開発した。ESR測定結果は、3次元電磁場シミュレーションにおいても再現的に評価できた。
- (2)生体スピン(TEMPOL)導入評価
- 中間評価のマイルストーンとして、ED50から最小致死濃度の範囲内で、in vivo ESR測定に適したスピンプローブ量(濃度)を決定することを目標としたが、ラジカル試薬の溶解度と注射容量から与えられる1回の測定で注射可能な最大量を投与してもマウスに対して大きな問題がないことを確認した。当該濃度を用いて生体ラジカルの計測に必要な基礎的データを取得できたため、以降のマウス生体やヒト血液を利用したESR計測試験は中断し、生体ラジカル測定装置の要素技術開発(MSL共振器とその利用法の開発)に集中した。
- (3)新規ラジカルプローブの開発
- ニトロキシルラジカルの反応部位周囲の置換基を変えることで、フリーラジカルとの反応性が変化することがわかった。今後、反応性の低いニトロキシルラジカル体などとのビラジカル体を合成することで新たな生体評価系の構築が可能となるものと考える。
- V.評価
- マイクロスプリットライン共振器の開発は順調に進捗しており、要素技術としてのESR生体計測技術については確立できたと考えられる。今後は、ラジカルプローブの試作をより高い工作精度で行ってデータの再現性を高めるよう、ものづくりの面にも留意しつつ、当該研究コミュニティのニーズを把握した上で、生体でのラジカルを無侵襲的に計測する具体的目標を明確化し、開発を着実に推進すべきである。[A]