資料4

開発課題名「単一磁束量子信号処理の超小型中性子回折装置」

(平成20年度採択:要素技術プログラム【一般領域】)

チームリーダー : 藤巻 朗【名古屋大学大学院 工学研究科 教授】
中核機関 : 名古屋大学
参画機関 :  大阪府立大学
T.開発の概要
 超伝導体MgB結晶を用いた中性子検出器は、従来の電離ガス中性子検出器と比べ応答速度や空間分解能において極めて優れた性能が期待できる。本開発は、この特長を生かしMgB超伝導検出器をマトリクス状に配置し、飛行時間法によるエネルギー計測に基づく超小型中性子回折装置を開発し、中性子装置の汎用性を向上させることを目的とする。そのためには、多検出器による高精度飛行時間計測を熱的擾乱がない状態で行うことが不可欠であり、単一磁束量子回路技術を導入して実現する。
U.中間評価における評価項目
(1)検出器後段処理単一磁束量子(SFQ)要素回路の開発
 準単一接合超伝導量子干渉素子(QOS)が検出器出力を検知できるよう感度を10μA以下とする最適設計を実施し、その後時間分解能40ns以下の時間−デジタル変換器(TDC)の設計、評価、多重化度4以上の多重化回路を開発した。多重化回路では、TDCを含む大規模回路では多重度2、多重化回路のみでは多重度4を達成した。
(2)4検出器リニアアレー基盤技術の開発
 アレイ化に向けMgB検出素子構造を最適化し、4ピクセルリニアアレイの試作を行った。1×4検出器アレイ、2×2検出器アレイの作製に成功した他、2×4検出器アレイの試作に成功した。加えて、4×4検出器アレイの設計を完了した。また、アレイ化した検出器のそれぞれが正しく動作しているかを調べるために素子に対し、パルスレーザを走査しながら照射する機構を導入し、X軸、Y軸の2次元に走査する装置を開発した。
(3)その他
 開発した検出器をGM冷凍機に実装したところ、振動対策を行う必要があることが判明し、SFQ回路の他、MgB検出素子周辺にも対策を講じ、冷凍機コールドステージの構造の最適化を図った。
V.評価
 MgB中性子検出素子の開発は、我が国で開発された超伝導体のデバイス化としての意義と、中性子検出の2次元高速固体素子として発展性があり、重要なテーマである。本課題は、分担開発者が開発したMgB検出素子を基礎に、チームリーダーがノウハウをもつSFQ回路の組合せにより、小型の高速かつ高空間分解能の固体中性子検出器の実現を目指すものであり、評価できる。信号検出系の製作では、冷凍機の振動対策等予期しないトラブルに見舞われたが、これを克服し、ほぼ順調に目標を達成している。しかし、中性子検出器として実用化するには、検出素子の検出効率の向上や実際の中性子照射実験を重ねてシステムを最適化することが不可欠である。今後、例えばMgB膜厚を増加するなど、中性子検出効率を上げる努力と、実際の中性子実験で求められている課題について、中性子関連の専門家・研究コミュニティとの意見交換が必要である。これらの課題に対して前向きに取組み、開発を着実に推進すべきである。[A]


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