チームリーダー : |
大木 進野【北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 准教授】 |
中核機関 : |
北陸先端科学技術大学院大学 |
参画機関 : |
石川県立大学 |
- T.開発の概要
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ジスルフィド結合を持つタンパク質、リン酸化などや翻訳後修飾を受けたタンパク質、膜タンパク質など、従来法では調製が難しいタンパク質試料を簡便に大量調製する汎用技術を確立する。目的タンパク質の発現には、ウイルスをコードする遺伝子と植物細胞を利用する。
- U.中間評価における評価項目
- (1)ジスルフィド結合(SS結合)タンパク質の発現
- BPTI(ブタすい臓トリプシンインヒビター)、AFP1(酵母に対するキラートキシン様タンパク質)、SSI(サブチリシンインヒビター)、P10(植物由来シグナルペプチド)など計5種類のSS結合タンパク質について、NMR測定に必要な量(mgオーダー)の発現に成功した。他の発現システムとは異なり、いずれのタンパク質も可溶化分画に目的タンパク質を発現させることができた。
- (2)13Cと15Nの二重標識
- 上記SS結合タンパク質のうちの3種類のタンパク質についてNMRスペクトルを測定した結果、すべて正しいフォールド(立体構造)を有していることを確認した。また、13C均一標識したショ糖と15N標識した窒化物を培地に加え、13C・15N二重標識BPTIを調製した。質量分析およびNMR分光による確認では、標識率は目標の90%以上であった。
- (3)その他
- 中間評価のマイルストーンに掲げていない成果として、大腸菌や酵母など既存のタンパク質試料発現システムでは報告例がない"チャレンジング・プロテイン"として、植物の気孔の分化に関与している因子P10や海馬の記憶機能に関連しているカルシニューリン阻害タンパク質RCAN1の調製に成功した。また、13C選択標識および中性子散乱やNMR解析に欠かせない2Hによる標識、並びにX線結晶構造解析に利用できるセレノメチオニンの植物細胞への取り込みについても検討し、いずれも可能であることを確認した。
- V.評価
- SS結合を含むタンパク質の発現は困難を伴う場合が多いが、複数種のタンパク質で発現・精製・NMRスペクトル測定に成功した。NMR分光からタンパク質立体構造を解くには、安定同位元素13C、15Nの標識が必須であるが、質量分析とNMR分光の両方から十分な標識率が得られていることを確認できている。X線解析にはセレノメチオニンをタンパク質に導入することがあるが、高等生物細胞でのセレノメチオニン導入には困難が多い。本開発で提案している植物を用いるシステムはその導入に成功した。
開発は順調に進行しており、当初目標に掲げた成果は達成できると期待される。今後は、実用化に向けた努力を継続し、開発を着実に推進すべきである [A]。
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