資料4

開発課題名「質量分析機能を備えた気体核磁気共鳴分光装置」

(平成19年度採択:機器開発プログラム【領域非特定型】)

チームリーダー :  冨宅 喜代一 【神戸大学  理学研究科化学専攻 教授】
中核機関 :  神戸大学
参画機関 :  JASTEC株式会社
T.開発の概要
 本課題では、非常に弱い核磁気共鳴相互作用の増幅を可能にする、「磁気共鳴加速」と呼ぶ新しい原理を利用した、NMR分光装置の開発を行う。ここでは、質量分析を兼ね備えた分光装置を創製するため、超高分解能質量分析技術として確立されているイオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析技術を発展的に利用した方法を採用する。また、タンパク質等の溶液中の不揮発性分子のみならず、固体表面の微量成分にも適用できように、イオン源として電気スプレーイオン源やレーザーデソープションイオン源(MARDI)を組み合わせた機器の開発を行う。装置仕様として、検出感度として105イオン/cm3、質量分解能は3000m/e、また NMR分光仕様として0.2 ppm以下の分解能の達成を目標としている。
U.中間評価における評価項目
(1)超伝導磁石の設計・製作
 70cm長のNMRセルの両端が12Tと4Tの平坦な磁場(0.1ppm程度)でかつ、この間が出来るだけ急勾配の傾斜磁場を与える超伝導磁石の設計・製作を行った。しかしJASTEC社における試運転中にクエンチが発生し、磁場コイルの一部が損傷した為、H21年度に修理を行う。
(2)NMR 用真空槽の設計・製作
 製作を完了し、NMR分光に必要な真空度、排気速度を確保した。
(3)ICR質量分析部の導入と整備
 質量分解能3000 程度のICRセルの設計・製作、質量分析信号処理系統の整備、コンピューター制御ソフトウエアーの製作が行い、システム動作確認を完了した。磁石完成後に最終試験を行う。
(4)NMRセルの製作とNMR用RF磁場発生システムの導入・整備
 セルの両端にπ-パルス発生用のコイルを設置し、セル内を往復運動しコイル内を通過する分子イオンの核スピンにRF(ラジオ波)磁場を印加して反転させ、傾斜磁場と核スピンの相互作用で発生する磁気力によるイオン束の速度増分がセルを往復するたびに増幅される。
 12T磁場に同調可能な32mm角の500MHz対応RFコイルと95%高透過率のメッシュ電極が開発され、初期仕様を十分満たしたNMRセルが完成した。磁石完成後にπ-パルスの条件の最適化を行う。
(5)磁気共鳴加速法の検証準備
 標準イオン源の製作は完了した。イオン束検出法としては、ピコ秒レーザーを用いる方法とマイクロチャネルプレート(MCP)を用いる方法のふたつを並行して開発を進めている。 磁石の完成後にどちらかのイオン束検出方法を用いて、磁気共鳴加速法の検証を行う。
V.評価
 超伝導磁石が修理中のため、装置全体の組み上げは大幅に遅延しているが、超伝導磁石以外のNMR 用真空槽、ICR質量分析部、NMRセル、RF磁場発生システムの開発はそれぞれ順調に進行しており、超伝導磁石が完成して磁気共鳴加速法の検証に成功すれば、当初目標である今までにない新規な、質量分析機能を備えた気体核磁気共鳴分光装置が開発できるものと期待される。 今後は、超伝導磁石のトラブル再発無きよう、磁気勾配のスペックはダウンして運転を行い、確実な原理検証の上で着実に推進すべきである[A]。


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