資料4

開発課題名「汎用走査プローブ顕微鏡シミュレータ」

(要素技術プログラム)

チームリーダー :  塚田 捷 【早稲田大学 大学院先進理工学研究科 教授】
中核機関 :  早稲田大学
参画機関 :  東京大学
東京工業大学
成蹊大学
T.開発の概要
 探針によりナノ材料の構造と物性を原子尺度で測る走査プローブ顕微鏡は、ナノテクノロジーの必須の計測技術であるが、探針・試料間の量子力学的相互作用による像を解析する実用的な理論数値シミュレータは存在せず、その大きな可能性が発揮されていない。そこで、走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、ケルビン力顕微鏡などの計測を支援し、実験室のPCクラスタで計測データを解析するための汎用SPMシミュレータを開発する。
U.開発項目
(1)探針モデル作成
 探針を設計・解析するソフトを開発し、また、種々の条件下における標準試料データを集積した。また、探針最先端部の熱ゆらぎや弾性体探針の大変形を計算するソフトを開発した。
(2)古典力学計算
 簡略電子状態計算に基づく原子間力計算法として、DFTB法(密度汎関数法に基づく強結合近似法)を開発し、この計算法を実装したシミュレータの有効性を確認した。
(3)SPM基本シミュレータ
 種々の探針模型を用いたAFMシミュレータ、DVXα法(第一原理分子軌道計算法)を実装したSTMシミュレータにおいて、計算の高速化に成功した。KFMシミュレータにおいて、連続体モデルによるシミュレーション法を開発した。
(4)有機分子・蛋白質分子
 有機分子のSPMシミュレーションのソルバーにおいては対象に応じてDFTB法やDVXα法を用いたものを開発し、像分解能の限界や、分子の動態と像の関係を例示した。タンパク質分子のAFMシミュレーションにおいては、パソコン上で高速に(1秒程度の時間で)計算可能な手法の開発に成功し、また、ナノ力学実験解析のソルバーを開発した。さらに、液中タッピングモードAFMのシミュレータの開発に成功した。またシミュレータに含まれる各ソルバーにおいて、マウス操作でグラフィカルに計算条件(測定環境の情報、試料および探針の組成情報など)の入力を行い、かつ出力結果の画像表示を行うためのGUIを実現した。
V.評価
 走査プローブ顕微鏡の探針・試料間の量子力学的相互作用による像を解析する、実用的な理論数値シミュレータの開発は、ナノテクノロジーの分野において必須な計測技術である走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、ケルビン力顕微鏡などの、走査プローブ顕微鏡での計測を支援する、優れた要素技術となることが期待される。
 要素技術の開発は順調に達成され、開発されたシミュレータは、複数のソルバーで構成され、多くの測定対象およびモデル系について適用可能であり、走査プローブ顕微鏡の可能性を発揮させる新規の方法論を提示した。今後は、ソルバー群のユーザーインターフェースの統一、操作性の簡易化、生命科学分野への応用可能性の具体化に努め、民間企業との連携による開発成果の事業化に向けた取り組みが引き続き期待される。
 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。A


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