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木材主成分の「リグニン」今回開発された組み換え微生物株の代謝経路のイメージ。

木材主成分の「リグニン」だけでペットボトルなどの原料を生産する微生物を開発

戦略的創造研究推進事業ALCA

JSTnews 2017年9月号掲載

二酸化炭素(CO2)の排出削減に大きく貢献するといわれているバイオマスを知っていますか。現在、バイオマス利用で得られる原料は主に糖質ですが、食料や新材料への利用拡大のため、将来は糖質の需要競合や原料の高騰が危惧されています。

弘前大学農学生命科学部の園木和典准教授、長岡技術科学大学の政井英司教授らは、木材に含まれるセルロースなどの多糖類を使わず、もう1つの主成分であるリグニンだけを使ってナイロンやペットボトルなどの原料になるムコン酸を生産する遺伝子組み換え微生物株の開発に成功しました。これまで微生物の増殖には炭素源として糖質が必要でしたが、開発した微生物株は、増殖の炭素源にもリグニンを利用できることが特徴です。

リグニンにはいくつかの種類があり、針葉樹、広葉樹、草本によってその基本構造と割合が違います。研究では、針葉樹、広葉樹、草本いずれのバイオマス由来のリグニンでも利用できる2種類の微生物株を開発しました。これらの微生物株を用いて針葉樹のスギや広葉樹のシラカバに含まれるリグニンからムコン酸を生産することができました。

今後、ムコン酸生産の収量や収率をさらに高めるために前処理方法の検討や微生物株の改良を行います。実用化されれば間伐材やワラなどを利用してムコン酸を生産でき、コスト低減につながる上、糖質の需要競合の回避や低炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

高塩ストレス処理DAB染色※の結果から高塩ストレス処理した植物は、活性酸素が蓄積しているのに対し、エタノール処理をした植物は高塩ストレス下においても活性酸素の蓄積が抑制されることが示された。
※3,3'-ジアミノベンジジン (DAB)は過酸化水素によって酸化されると茶色になることから、染色された部分には活性酸素が存在することを示す。

エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2017年9月号掲載

植物は高濃度の塩類を含む土壌では、根からの水分吸収の阻害や、光合成能の低下が生じ、生育が阻害されるなどの塩害を受けます。塩害は、海沿いの地域では海水や潮風によって起きます。

かんがい農業が行われる乾燥地や半乾燥地では、土壌中の塩分が雨で流されにくいため、蒸発する時に地表に塩類が集積されることが原因の1つとなっています。世界のかんがい農地の約20パーセントで塩害が発生しており、作物の生長や収量に大きな被害をもたらしています。増加の一途をたどる世界の人口への食料供給を維持するために、塩害から植物を守る技術の開発が急務となっています。

理化学研究所環境資源科学研究センターの関原明チームリーダーらは、シロイヌナズナを用いた解析から、エタノールで処理した植物の耐塩性が向上することを発見しました。

網羅的な遺伝子発現解析を実施した結果、高塩ストレスで発生した活性酸素を除去する遺伝子群の発現が、エタノール処理によって増加することがわかりました。また、エタノールは過酸化水素(活性酸素の1種)を消去する酵素の活性を増加させることも明らかにしました。

エタノール処理により、シロイヌナズナおよびイネにおいて活性酸素の蓄積を抑制し、耐塩性が強化されることを発見しました。これにより、かんがい設備の設置が経済的に困難な地域などで農作物を塩害に強くする肥料の開発や、農産物の収量の増加が期待できます。

走査型透過電子顕微鏡(STEM) と概要走査型透過電子顕微鏡(STEM)と概要。試料に細く絞った電子を照射し、透過散乱した電子を検出器で検出して観察する手法。

最先端の電子顕微鏡開発 原子1個の内部電場の直接観察に成功

先端計測分析技術・機器開発プログラム

JSTnews 2017年8月号掲載

電子顕微鏡は基礎研究分野や材料の研究開発に利用され、最近では環境エネルギーや医療といった分野でも貢献 しています。

光学顕微鏡は光を使い数百ナノメー トル程度見えるのに対して、電子顕微鏡は電子の波の性質を利用することで、今や0.05ナノメートル以下の世界を観察できます。これは、水素原子の可視化が可能なレベルで、すべての元素の原子を直接見ることができます。しかし、さらにその先の原子内部の原子核や電子の状態を電子顕微鏡で直接観察することは極めて困難でした。

東京大学大学院工学系研究科の柴田直哉准教授、関岳人特任研究員、幾原雄一教授らは、日本電子と共同で電子顕微鏡の一種である走査型透過電子顕微鏡(STEM)を使い、検出器を分割する独自の方法と組み合わせることで、金原子1個の内部に分布する電場の直接観察に世界で初めて成功しました。この電場は原子内部の正の電荷を持つ原子核と負の電荷を持つ電子雲との間に存在し、原子核から電子雲に向かって湧き出している様子が可視化されました。

今回の成果は、電子顕微鏡を原子の内部構造まで観察できる顕微鏡に進化 させるもので、将来は原子同士をつなぐ共有結合なども観察できるかもしれません。また、日本の電子顕微鏡技術が世界最高水準にあることを示す成果であり、ナノテクノロジーの研究開発を格段に向上させるきっかけとなると期待されます。

ナノ構造の熱伝導計測用光学 システムと測定原理ナノ構造の熱伝導計測用光学 システムと測定原理。ナノ構造の熱伝導は、一般的に電気的手法であるマイクロヒーターと温度測定素子を用いるが、本研究の光学的手法は桁違いの高い処理能力を実現しており、系統的でより誤差の小さい測定が可能である。

熱の運び手フォノンの制御に成功

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2017年8月号掲載

熱は固体中で四方八方に拡散するため、これまで特定の方向に流すことは困難であるとされていました。

東京大学生産技術研究所の野村政宏准教授、ロマン・アヌフリエフ特別研究員、エメリック・ラミエール特別研究員らは、 ナノテクノロジーを積極的に利用することにより熱伝導を高度に制御できることを明らかにしました。熱は、固体を作っている原子の振動の量子であるフォノンによって運ばれ、熱伝導の特性はフォノン同士の衝突で決まります。しかし極めて小さな構造の中では、フォノン同士が衝突する前に構造に衝突するため、適切な構造を作ることで熱伝導を制御できるようになります。

野村准教授らは、シリコン薄膜にナノサイズの円孔を規則正しく配列し、熱の運び手であるフォノンが直線に移動する構造を形成することによって、熱流に指向性を持たせることに成功しました。さらに、フォノンの指向性を利用し、フォノンが1点に集中するよう放射状に空孔を配置したレンズのような構造では、熱流を100ナノメートル程度のごく狭い領域に集められることを実証しました。

固体中での熱流制御に新しい選択肢をもたらし、高度な熱マネジメントが望まれる半導体分野への応用が期待できます。また、半導体などにおける放熱性能の向上や、熱流の指向性を積極的に利用する構造設計、局所的な熱流や温度分布を必要とする場所への利用が考えられます。

正常組織とがん組織との形態と温度の違い正常組織とがん組織との形態と温度の違い。開発された温度応答性ナノ微粒子(緑色の球)はがん組織の隙間に入り込んで大きくなり(茶色の球)、がんの中に留まるように設計された。

ナノ微粒子ががん組織だけに集まる仕組みを開発

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2017年7月号掲載

副作用なしにがん治療を受けられることは、多くのがん患者や家族の願いです。正常細胞を傷つけることなく、がん細胞にのみ薬剤を運んで治療するドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究が進んでいます。

がん組織内に生じた数十〜数百ナノメートルの隙間に、ちょうど合うナノ微粒子に薬剤をくっつけて運搬し、集積させる方法がDDSの鍵として注目されています。しかし、多くのナノ微粒子は、 がん細胞の活動で生じる隙間にサイズは合っているものの、がん組織だけでなく正常な組織にも広がってしまい副作用を発症するなどの問題がありました。

九州大学大学院薬学研究院の唐澤悟准教授(現・昭和薬科大学教授)らは、温度が変わると分子が集合して形やサイズが変化する「温度応答性ナノ微粒子」を使って、がん組織に分子を集めて留める方法を開発しました。このナノ微粒子は、ヒトの体温よりも少し高い温度域になると自ら集合して大きなサイズになります。蛍光分子を取り付けたナノ微粒子をがんを持つマウスへ投与したところ、がん細胞の温度に応じ、がん組織に集積する様子が蛍光を使って観察できました。

将来は、効率的に、すばやく微粒子をがん組織へ集める方法が可能になり、従来のDDSが抱えていた、がん細胞以外への副作用を解決するだけではなく、低い投与量で負担が少ない、新たながん診断や治療に役立つことが期待されます。

高速原子間力顕微鏡(高速AFM)により観察したERdj5のクラスターの動きの経時変化の模式図高速原子間力顕微鏡(高速AFM)により観察したERdj5のクラスターの動きの経時変化の模式図。0.0〜0.2秒のイメージではC末端側クラスターが開き、0.3〜0.5秒のイメージではC末端側クラスターが閉じ、0.6〜0.8秒のイメージではC末端側クラスターがまた開く様子を表している。

細胞内でたんぱく質の不良品を分解するメカニズムを解明 神経変性疾患の原因解明に貢献

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2017年7月号掲載

人間の体内では絶えずたんぱく質が作られていますが、細胞内では、正常なたんぱく質を作ると同時に、異常なたんぱく質を速やかに分解・除去する巧妙な品質管理が行われています。

たんぱく質は、多くのアミノ酸が組み合わさった「複雑な立体構造」を持ち、正常な立体構造を形成するためには、システインというアミノ酸同士が結びつく「ジスルフィド結合」が非常に重要であると考えられています。一方で、まれに誤ったシステイン間でジスルフィド結合が形成され不良品の「構造異常たんぱく質」ができることがあります。これを分解する上で重要な働きをするのが、ERdj5と呼ばれる「ジスルフィド結合開裂酵素」です。

しかし、さまざまな大きさやジスルフィド結合の数を持つ構造異常たんぱく質に対して、どのように効率よくジスルフィド結合を還元するのかはわかっていませんでした。

東北大学多元物質科学研究所の稲葉謙次教授らは、X線結晶構造解析という手法を用いて、ERdj5のクラスター間の配向が異なる2つの状態の構造を高分解能で決定しました。さらに、分子の動きを1分子レベルで観察できる高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて、C末端側クラスターが、N末端側クラスターに対して高速に動いている様子を世界で初めて観察しました。この結果から、ERdj5のC末端側クラスターの動きが、不良品たんぱく質のジスルフィド結合を効率的に還元し、分解する重要な役割をしていることを明らかにしました。

このような神経変性疾患の主要な要因の1つとして、細胞内に不良品たんぱく質が過剰に蓄積することが挙げられますが、本研究がこれらの疾患に対する分子構造レベルでの原因解明につながると期待されています。

熱抵抗が最大または最小になるナノ構造を同定する計算手法の概略図熱抵抗が最大または最小になるナノ構造を同定する計算手法の概略図。

機械学習により熱流を制御するナノ構造物質の最適設計に成功

イノベーションハブ構築支援事業、戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2017年7月号掲載

材料の内部にナノスケールの構造を作製して、熱輸送を制御する技術が注目されています。これらの進展には熱輸送の計算科学の発展が望まれていましたが、最適な構造を設計する試みは行われていませんでした。

東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎准教授と同大学大学院新領域創成科学研究科の津田宏治教授(ともに物質・材料研究機構(NIMS)情報統合型物質・材料研究拠点兼任)らは、熱抵抗を最大または最小にする最適なナノ構造を、従来の数パーセントの計算量で特定する計算手法を開発し、非直感的な新規ナノ構造を設計することに成功しました。

塩見准教授らが研究するナノ構造の熱輸送を計算する手法と、津田教授らが開発した「ベイズ最適化」という手法を使った物性の予測や結晶構造の最適化などを高速に行えるソフトウエア(COMBO)を組み合わせることによって、ナノ構造を最適化する新しい手法を開発しました。シリコンとゲルマニウムから構成される材料を用いることで、すべての候補を計算せずに、数パーセントの数を計算するだけで最適構造を特定できることを明らかにしました。

この成果により、材料科学とデータ科学を融合したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が熱機能ナノ材料の開発に役立つことがわかりました。イノベーションハブ構築支援事業では、NIMS情報統合型物質・材料研究拠点に100名を超える材料科学者とデータ科学者が集結し、データ駆動型の研究手法の開発に取り組んでいます。また、コンソーシアムを発足させ、MI分野のハブ拠点化をめざしています。さらに、CRESTなどの支援を活用した応用研究も行われています。今後、光や電子デバイスなどの放熱、熱遮蔽による機器保護、熱電変換素子の効率向上などへの応用が期待されます。

ソフトロボットにより植物のやわらかさと動きを再現した例ソフトロボットにより植物のやわらかさと動きを再現した例。タッチセンサーとモーターの一体化によってハエトリソウを模したソフトロボットを作製した。

印刷技術で薄くてやわらかいモーターを実現

戦略的創造研究推進事業ERATO

JSTnews 2017年7月号掲載

ロボットというと金属製の硬いボディを思い浮かべますが、生物に似た動きや、人にぶつかった場合の安全性などに注目して、やわらかな体を持つ「ソフトロボット」の研究が急速に進んでいます。ただし、これまでのソフトロボットにおいても、関節を曲げ伸ばしする駆動源は、電気モーターや圧縮空気ポンプなど金属製の重い部品で構成されており、その小型化、軽量化には多くの課題が残されていました。

東京大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博准教授、新山龍馬講師らは、構成部品がすべてやわらかく軽量なモーターを印刷技術で作ることに成功しました。このモーターは電気や圧縮空気の代わりに熱を用います。低温で沸騰する液体が入ったプラスチックの袋を、導電インク技術で印刷した薄くてやわらかいヒーターで加熱することで、袋の内部で液体が気化・膨張し、モーターの駆動力を得る仕組みです。自然冷却によってモーターは繰り返し動きます。また、配線やタッチセンサー、アンテナなどもモーターと一緒に印刷すれば、簡単に一体化できます。

作製したモーターは、大きさ80ミリメートル×25ミリメートル、重量が約3グラムと非常に軽量でありながら、実験では小指程度の曲げ力に相当する最大約0.1ニュートン・メートルの回転力を発生でき、最大動作角度は90度に達しました。

やわらかく薄い特徴に加えて、装置が安価で作業時間が短くて済むため、工業用途だけではなく家庭や学校教育現場など、さまざまな場所での活用が期待されます。

亜鉛イオン、リン酸、イミダゾールからなる配位高分子結晶の構造亜鉛イオン、リン酸、イミダゾールからなる配位高分子結晶の構造。

イオンの流れを光によってスイッチングできる固体材料の合成に成功

戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)

JSTnews 2017年6月号掲載

固体状態で高いイオン移動度を示す物質を、固体イオン伝導体といいます。例えばリチウムイオンを固体中で伝導させる材料や、プロトンと呼ばれる水素イオンを伝導する材料はそれぞれ、リチウム電池や燃料電池の性能、安全性を飛躍的に向上させることが期待されています。

イオン伝導体は、ある温度で電圧を加えるとイオンを流し始めますが、電圧だけでなく、光のような刺激によってイオンの流れを任意にスイッチできれば、電池用途にとどまらないデバイス応用の可能性が生まれます。しかし従来は固体の状態で刺激に応答するイオン伝導体の設計は困難でした。

京都大学高等研究院の堀毛悟史准教授、北川進教授、フランスIRCELYONのオード・デメッセンスCNRS研究員らの研究グループは、金属イオンと有機物が結合してできる、配位高分子と呼ばれる結晶中でイオンの流れを光でスイッチングできる新たな材料の合成に成功しました。

光に応答するイオン伝導性を固体中に持たせるには、固体全体でイオンが伝導できる特性と、光に応答してその伝導の流れを変えられる分子の両方が存在する必要がありました。

研究グループは配位高分子の中から、亜鉛イオンとリン酸、イミダゾールが結晶中でネットワークを組む結晶を用いました。結晶は、160度で安定な液体となる性質があります。この結晶を160度で融解させ、プロトンを放出・再結合する有機分子を溶液中に分散させた後、冷却して固体に戻すことで結晶全体に分散させた光応答性イオン伝導体の固体材料の合成に成功しました。合成した固体材料に光を当てるとプロトンを伝導するようになり、光を止めるとその伝導も停止します。この機構を応用すれば、不揮発性のメモリーや電気を蓄えるコンデンサー、あるいは光駆動するトランジスターなどの研究開発に大きく貢献すると期待されます。

ミントボディを発現させたタバコ細胞(2個)の蛍光イメージング像ミントボディを発現させたタバコ細胞(2個)の蛍光イメージング像。上から、低温ストレスを与えてから0、1、2時間後の像。中央のまるく抜けている領域が細胞核で、ヒストンが存在する。暖色系の色ほど蛍光の強度が強い。時間の経過に伴って核内のミントボディの蛍光が増えてきていることから、低温ストレスに応答してヒストンのアセチル化が増えていることがわかる。スケールは100マイクロメートルを示す。

生きた植物細胞で初めて遺伝子の活性化を観察

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

JSTnews 2017年6月号掲載

細胞核にあるDNA配列の変異に関係なく、DNAや真核生物の染色体を作る主要なたんぱく質であるヒストンが化学的な作用を受け、DNAが発現しやすくなったり不活性にしたりする遺伝子の動きを決める変化のことをエピジェネティクス変化といいます。例えば、三毛猫がほぼメスであることにもこの現象が深く関わっています。

東京理科大学理工学部の松永幸大教授らは、理化学研究所や東京工業大学との共同研究で、マウスの抗体の一部を植物細胞で発現させ、植物のエピジェネティクス変化を生きたまま解析する方法を開発しました。

エピジェネティクスの指標の1つに、ヒストン修飾があります。DNAに結合する塩基性たんぱく質であるヒストンの末端部分が化学的に修飾されるもので、アセチル化、メチル化があります。一部に蛍光たんぱく質を結合させた細胞内抗体を動物細胞で発現させて、生きた動物細胞でヒストン修飾の観察が可能になりました。

しかし、植物には抗体の遺伝子がないことから、植物細胞内で細胞内抗体を発現させてもヒストン修飾を正常に認識できるかは不明でした。研究グループはタバコ培養細胞を用い、細胞内抗体が生きた植物細胞で正常に構造を保持し、ヒストンのアセチル化リジン残基を認識していることを証明しました。また、単一の植物細胞レベルで低温や塩ストレスによるエピジェネティクス変化を捉えることに世界で初めて成功しました。

この研究により、ヒストン修飾イメージング技術が確立され、エピジェネティクスにより制御される植物の環境応答や環境記憶メカニズム解明の進展、植物科学や農学研究への貢献などが期待されます。

開発された第2世代ワイヤレスIWMの構成図開発された第2世代ワイヤレスIWMの構成図。

道路からインホイールモーターへの走行中ワイヤレス給電に成功

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

JSTnews 2017年6月号掲載

自動車のホイール内部に駆動モーターを配置するインホイールモーター(IWM)タイプの電気自動車は、その優れた運動性能により、安全性、環境性、快適性のあらゆる面でメリットがあります。しかし、従来のIWMではモータを駆動する電力を送るため車体とIWMをワイヤでつなぐ必要があり、このワイヤが断線するリスクがありました。

一方、電気自動車の普及が進んでいない一番の課題は、従来のガソリン車などに比べ充電1回あたりの走行距離が短いことです。そこでバッテリーの搭載量を最小限にして、走行中に足りない分のエネルギーを道路に設けたコイルからワイヤレスで送って補う走行中給電の実現に向けて、世界で多くの研究が行われています。これまで検討してきた方法の多くは、道路に設けたコイルから車体の底に装着した受電コイルに電力を送り、車載バッテリへ給電をするものでした。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループは、東洋電機製造株式会社、日本精工株式会社と共同で、道路のコイルから車体ではなくIWMに直接、走行中に給電できる第2世代ワイヤレスIWMを開発し、世界で初めて実車での走行に成功しました。

この方式では、車体に上下運動が生じることによる効率の低下を防止できます。また、IWMに蓄電デバイスを内蔵し、これを適切に使用するための高度なエネルギーマネジメント技術も開発しました。さらに、IWMの走行中給電では個々のモーターが電力を受け取れるので、道路側コイルから送る電力を小さくでき、道路側設備の簡易化にもつながります。

これにより、電気自動車の課題である走行距離の短さを解決できます。IWMに適した新たな走行中給電のかたちが提案されたことで、電気自動車の普及や地球環境の保全への貢献が期待されます。

日本への分譲が承認されたハヤトウリ日本への分譲が承認されたハヤトウリ。実際の分譲は果実丸ごとではなく、試験管内で組織培養された状態で行われる。ものさしの1目盛は1センチメートル。日本や東南アジアでも栽培されている。

メキシコから日本へ!植物遺伝資源の分譲第1号を筑波大学が取得

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

JSTnews 2017年5月号掲載

筑波大学生命環境系遺伝子実験センターの渡邉和男教授らは、メキシコから日本への植物遺伝資源であるハヤトウリの分譲承認を取得することに成功しました。これによりメキシコ政府から正式にハヤトウリ遺伝資源*を日本へ持ち込むこととなり、名古屋議定書に基づくメキシコから日本への分譲承認の第1号となります。

今後、分譲されたハヤトウリ遺伝資源を用い、長期保存法の開発や栽培形質の評価、将来の新品種育成に向けた学術研究、機能性成分の研究などを行う予定です。また、将来的には本研究成果をメキシコ農村社会のみならず、アジア圏にも還元することをめざしています。

1993年に発効した生物多様性条約では、遺伝資源は保有国に主権的権利があるとされ、遺伝資源利用による利益を提供者と利用者が公正かつ衡平に配分するよう規定されました。同条約名古屋議定書では遺伝資源の取得の機会を与える条件として、遺伝資源を保有する締約国の事前の情報に基づく同意(PIC)や遺伝資源の提供者と利用者との間で相互に合意する条件(MAT)を設定することなどが必要であると定められています。

名古屋議定書締約国の多くでは、このような分譲手続きの具体的整備や事例蓄積が進んでおらず、渡邉教授は「遺伝資源の国際共有を伴う学術研究に弾みがつくと同時に、さまざまな遺伝資源を活用した事業化や地域振興につながることを期待しています」と遺伝資源の正式な分譲手続きの事例を提供できたと手応えを感じていました。

*遺伝資源とは?
現在あるいは将来的に価値がある、植物、動物、微生物などに由来する素材のことを言います。一度失われた遺伝 資源は、二度と取り戻すことができないため、その遺伝的多様性を保全することが重要な課題となっています。

遺伝子組換え微生物の拡散を防ぐ新技術を開発リン酸化合物の輸送体遺伝子(大腸菌の場合7種類)を破壊し、ある種のバクテリアから発見した亜リン酸輸送体と亜リン酸酸化酵素の2種類の遺伝子を導入することによって亜リン酸だけしか利用できない性質を示す。

遺伝子組換え微生物の拡散を防ぐ新技術を開発

戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)

JSTnews 2017年5月号掲載

ゲノム編集などの遺伝子工学技術の急速な進展によって、従来は作ることができなかったような多様な組換え微生物の作製が可能になっています。一方で、組換え微生物の安全性を高めるための技術開発はあまり行われていません。広島大学大学院先端物質科学研究科の廣田隆一助教、黒田章夫教授らの研究グループは、亜リン酸というリン化合物を利用し、組換え微生物の環境中への拡散を防ぐ新しい生物学的封じ込め技術を開発しました。

生物学的封じ込めとは、組換え微生物が誤って実験室環境外へ漏れ出た場合に備え、自然環境中では生存できないような性質をあらかじめ与えておく技術です。従来のビタミンやアミノ酸などの栄養源がないと生きられないようにする技術や、実験室外では自然に消滅するような仕掛けによる生物学的封じ込めでは、封じ込めから逃れる変異体が出現しやすいなどの問題があったため、より効果の高い手法の開発が求められていました。

リンは核酸やATPなどの成分として、あらゆる生物の必須元素であるため、微生物の生育はリンの獲得に依存します。通常の生物はリン酸(HPO42-)をリン源として利用しますが、研究グループはリンの代謝系を改変し、天然には存在しない亜リン酸(HPO32-)というリンしか利用できない性質を作り出すことに成功しました。この性質を与えられた大腸菌は、亜リン酸が得られない条件では全く増殖できず、その効果は世界最高レベルでした。また、封じ込め株の作製は、リンの代謝に関わる9個の遺伝子改変により可能であり、同程度の効果を得るために開発された既存の手法と比べると極めてシンプルで、さまざまな微生物に適用できると考えられます。さらに亜リン酸は非常に安価であるため、二酸化炭素を固定して有用物質を作ることができる有用微細藻類など、大きな規模で行われる微生物培養の実用化に貢献する技術として期待されます。

「電気代そのまま払い」を利用して冷蔵庫を買い替えた場合の、冷蔵庫導入費用の返済方法例。
「電気代そのまま払い」を利用して冷蔵庫を買い替えた場合の、冷蔵庫導入費用の返済方法例。

電気代節約分で新型・省エネの冷蔵庫が手にできる家電買い替えの新たな枠組みを提案

低炭素社会戦略センター(LCS)

JSTnews 2017年4月号掲載

家電量販店で必ず目にする「省エネ」の文字。1日あたりの電気代と年間でいくらお得になるかを、各メーカーがここぞとばかりにアピールしています。我が家もそろそろと、考えてはみるものの、特に大型家電の買い替えは値段をみて二の足を踏んでしまいます。省エネや月々の電気代の節約より一度に大きな出費を避けたいのが人情です。

そんな消費者の心理と、省エネ効果をうまく結びつけた提案が実現し始めました。

低炭素社会戦略センター(LCS)と東京大学大学院工学系研究科の松橋隆治教授(LCS研究統括)らが2014年より家庭での省エネを進めるために提案してきた「電気代そのまま払い」の枠組みの実施です。これは、冷蔵庫などの省エネ機器を導入する際、必要な初期費用を金融機関などが立て替え、節約した電気代相当額を月々の電気代と一緒に支払い、冷蔵庫代を返済するアイデアです。LCSと東京大学は「電力使用量見える化実験」により収集した実際の家庭の冷蔵庫の消費電力データに基づき、月々に節約される電気代を簡単に推計する方法を開発しました。

この成果をもとに、2015年4月より静岡ガスの協力を得て静岡県内の一般家庭20世帯で、冷蔵庫の消費電力量の計測を開始し、このデータを分析しました。この分析結果から、これまで5世帯に「電気代そのまま払い」を提案し、2世帯で冷蔵庫の買い替えが実現しました。実際に冷蔵庫を買い替えた家庭では、60%以上の省エネ効果(電気代にして1,500円/月以上の節電効果)が確認されました。

買い替える前と同程度の電気代を月々支払うだけで、最新の機器を導入できることは家計にとって、どれだけ嬉しいでしょうか。将来、この枠組みを冷蔵庫以外の家電や照明などの機器に広げることで、家庭での省エネ量は確実に高まるはずです。家計にも環境にも優しい枠組みを、今後は全国へ普及させることをめざします。

モバイル遺伝子検査機(試作機)
モバイル遺伝子検査機(試作機)。高さ200mm×幅100mm×厚み50mm、重量約500g

携帯できる小型遺伝子検査装置を開発 インフルエンザやノロウイルスの感染を現場で検査

先端計測分析技術・機器開発プログラム

JSTnews 2017年4月号掲載

風邪かな?と思っても初期症状だけで病気を自己判断するのは禁物です。実はインフルエンザだったということもよくあります。

インフルエンザやノロウイルスによる集団感染や食中毒の拡大を抑えるには、初期段階で有効な対策が必要です。そのために原因となる細菌やウイルスの特定を現場で素早く、高精度に測定する手段が求められていました。

開発した遺伝子検査装置は、軽くて持ち運びが可能で、インフルエンザなどの感染を約10分で検査できます。遺伝子検査は通常、血液などを使い、遺伝子の特定部分を大量に増やし感染を調べますが、今回小さなプラスチック基板で高速に遺伝子を増やす技術と、遺伝子の量を高感度で測定できる小型蛍光検出技術を組み合わせることで、高精度のまま小型化と短時間での検査を実現しました。

日本板硝子株式会社の福澤隆主席技師と産業技術総合研究所の永井秀典研究グループ長、株式会社ゴーフォトンの共同開発チームの成果です。

これまでの遺伝子検査装置は大型で、専門施設内での利用に限られていたため、現場で採取したサンプルを送るなど、判定までに1日以上かかっていました。その結果、現場の簡易検査で陰性だったのに、遺伝子検査で感染が判明し対策が後手に回ることもありました。

新たな装置は、どこへでも簡単に持ち運べることから、食品衛生、感染症予防、環境汚染調査など幅広い分野での活用が期待されます。医療機関や食品工場に加えて、学校や空港などの公共施設に持ち込み迅速な遺伝子検査が可能になります。近い将来さらに小型化され、スマートフォンのように1人1人が持ち歩き、感染症の診断を自分でチェックする――なんてことが実現するかもしれません。