事業成果

非接触でデータ伝送する3次元チップ

超低消費電力で高速データ伝送!2017年度更新

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黒田 忠広(慶應義塾大学理工学部 教授)
CREST
情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術
「高性能・超低電力短距離ワイヤレス可動情報システムの創出」研究代表者(2005-2011)
CREST
ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術
「ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」主たる共同研究者(2009-2015)
ACCEL
「近接場結合集積技術による革新的情報処理システムの実現と応用展開」研究代表者(2015-2020)

小さな消費電力で高速にデータをやりとり

技術が進みコンピューターの処理能力が上がるにつれて、より膨大なデータがやりとりされるようになった。処理するデータが増えると消費電力も増加し発熱して動作できなくなる。そこで、近年消費電力を大幅に削減する研究が進められ、大きな注目を集めている。情報化社会の加速度的な進化に対応するためには、どうしても消費電力の削減が必要になってくるのだ。

黒田忠広教授を中心とするチームはCRESTにおいて他より先駆けて、その「近距離データ無線通信技術」で消費電力を一挙に従来の1000分の1に減らすことに成功した。近接場結合(コイルを使い、とても短い距離を無線で通信する方式)による積層チップ間無線通信技術「ThruChip Interface(TCI)」である。

具体的な数字をあげれば、ボタン電池1個分というわずかな電力でなんと2時間映画600万本のデータをチップ間で伝送できるようになった。1400年分の映像記録に相当するデータ量だ。これは、以前から低電力化とワイヤレス化の研究に取り組んできた黒田教授のチームだからこそ実現できた画期的な技術であり、次のステップを切り拓く大きな可能性を秘めた研究なのである。

1000分の1の電力低減を実現させたスルーチップインターフェイス

消費電力を1000分の1まで低減させたTCIとはどのようなものか。簡単にいうならば、大規模集積回路の中で、積み重ねられたチップとチップとのやりとりをワイヤレスで行う技術である。チップを平面に並べるのではなく積み上げていくことで高速化を図る、いわゆる「三次元実装」は世界中で研究が進んでいる。しかし、チップとチップを結ぶワイヤボンディングという技術は処理速度が遅く、また縦に穴を開けて信号の通り道を作っていく貫通シリコンビアは製造コストが高いなどの大きな欠点があった。(図参照)

そこで、チップを貫通する穴を開けるのではなく、回路技術を使ってチップ間を無線で結ぶというのがスルーチップインターフェイス=TCIなのだ。チップ上にある配線を使ってコイルを作る。片側のコイルに流れる電流を変化させるとコイル間を貫く磁界も変化し、もう一方のコイルで電圧の変化となってデータが伝わる。このように2つのコイルの間を非接触でデータ通信ができるという非常にシンプルな仕組み。シンプルではあるが「チップ間のデータの転送に磁界結合を使う」という発想が唯一無二のものだった。

積層チップ間の通信技術の進化

積層チップ間

スマホにも応用可能な非接触コネクタを独自開発

黒田教授らの独自開発の技術としては電磁界結合を用いた非接触コネクタ技術「Transmission Line Coupler(TLC)」も重要だ。通常、コネクタは回路基板間やモジュール間を機械的に接続する。この非接触コネクタは無線通信方式で、機械式に接続する従来のコネクタとは違い、接触不良などによる通信不能が起こりにくく、小型軽量でコストも低減され、高速、省電力で信頼性の高いシステムに応用できる。最新の発表では更に小型化が図られ、スマートフォンなどの小型モジュール間の接続にも応用できることが証明された。

小型、高性能、低消費電力、高信頼性なシステムの実現に向けて

2015年、黒田教授らは、更に低消費電力で高性能なデータ処理を実現する情報処理集積システムの実現に向けてACCELの研究開発をスタートさせた。ここではTCIを使ってシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)とメモリLSIを3次元に積層し、TLCを使いセンサーなどの周辺モジュールを無線接続することが考えられている。この研究もまた世界的な注目を集めることは間違いない。TCIとTLCという黒田教授独自の技術は、小型で高性能、高信頼性な3次元チップの実現や高速、高信頼性が要求されるシステムなどに応用され、半導体応用製品のコア技術として、データセンター、ロボット、機械学習やディープランニングなどの人工知能分野への応用、より高度な処理を行えるインテリジェント端末、高性能小型コンピューター、次世代スーパーコンピューターなど情報通信技術分野の進化に大きく貢献することだろう。

黒田チームが目指すビジョンの図

ビジョンの図

データセントリックコンピューター
(IoT時代の極低消費電力モバイルコンピューター)

黒田チームの図

近接場結合集積技術(大規模システムの接続問題の解)