事業成果

人間とロボットの新たな関係

対話感を深めるロボット技術2017年度更新

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石黒 浩(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授/株式会社国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所 客員所長)
CREST
共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築
「人の存在を伝達する携帯型遠隔操作アンドロイドの研究開発」研究代表者(2010-2014)
ERATO
「石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト」研究総括(2014-2019)

抱きながら電話すると通話相手がすぐそばに感じられる「ハグビー」

抱き枕のようなビーズクッションの人形を胸に、幸せそうな表情を浮かべている女性。女性が耳をあてている部分からは、遠く離れた人の声が聞こえ、自分の声も相手に伝わっている。そう、この人形は電話なのだ。この「ハグビー」は、抱きながら通話することで、遠く離れた相手の存在を、普通に電話する場合よりもずっと強く、すぐそばにいるかのように感じることができる、新しい通信メディアだ。

「ハグビー

存在感が伝わる通話でストレス軽減効果

ハグビーを開発したのは、石黒浩教授だ。見かけだけではなく繊細な動きまで人間と酷似したアンドロイド、人間との自然なコミュニケーションを目指すロボビーなど、人間と豊かにかかわる人間型ロボットの研究に取り組んでいる。

研究テーマの1つが、遠く離れた場所にいても自分の存在感を相手に伝えられる「ジェミノイド(遠隔操作型アンドロイド)」だ。ある人物そっくりのジェミノイドをつくり、遠く離れた場所から本人が遠隔操作して応対をする。すると、あたかも自分がそこにいるかのような存在感が相手に伝わり、自然な対話が実現できることが確かめられた。

さらに研究を進め、存在感を伝えるために必要な部分は何かを突き詰め、機能を削ぎ落としていくと、抱きかかえたり、握ったりしながら会話すれば、遠隔操作による細かな動きや人間に似た顔などなくとも、存在感は十分強く伝わることが分かった。そこで開発されたのがハグビーだ。携帯電話などの通信メディアを頭部のホルダーに収納し、抱きしめながら通話すると、相手を抱きしめているような感触、耳元から伝わる相手の声、声に同調した振動といった必要最小限の要素によって、相手の存在を強く身近に感じることができる。その効果を検証したところ、ハグビーを抱きながら通話したグループは、携帯電話で通話したグループと比べ、ストレスを受けると分泌する「コルチゾール」というホルモンの血中濃度が減少し、人との接触で見られるようなストレス軽減効果があることが確かめられた。

この研究によって得られた知見は、今後の通信メディアのデザインに新たな示唆を与えるものだ。例えば電話を使った遠隔カウンセリングなどでは、ハグビーのような「抱いて話す」メディアが効果的だと考えられる。

社会的対話ロボット「CommU(コミュー)」「Sota(ソータ)」

くりくりっとした大きな目が愛らしい、卓上の小型ロボット同士がお話をしている。ロボットがこちらに問いかけてくるのでロボット同士の会話にまぜてもらった。なんとも不思議な感じだ。ロボットの名前は「CommU(コミュー)」。違和感なく人間と会話するロボットの研究から生まれた。開発したのは、 ERATO「石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト」の石黒教授、大阪大学基礎工学研究科の吉川雄一郎准教授とロボットメーカーのヴイストン株式会社だ。

コミューは高さが約30センチで、ヒト型の上半身だけからなる。ロボット同士の対話に人間を巻き込むことで、これまでは難しかった「人間が対話に参加している感覚(対話感)」を覚えることができるロボットだ。小型のロボットでは通常採用されない眼・頭・胴体の豊富な自由度をもち、顔の表情や視線の方向を細かく動かして人間との自然な会話を演出できる。

ヴィストン社がコミューを元に普及型として開発したのが「Sota(ソータ)」だ。ソータの方は眼が動かず、腕の自由度等も落としたより簡易な構造となっている。ソータのデザインはロボットクリエイターの高橋智隆氏が手がけた。

社会的対話ロボット「CommU(コミュー)」

社会的対話ロボット「CommU(コミュー)」(左)と「Sota(ソータ)」(右)

人間とロボットとの豊かな関係を目指して

このプロジェクトでは、新たに開発した音声認識などを用いて人間と自然に対話することを目指したアンドロイド「ERICA(エリカ)」やCRESTで開発された赤ちゃんくらいの大きさのロボット「テレノイド」も活用して、高齢者や自閉症児のケア、健常者へのコミュニケーション教育・学習支援などに役立てるための実証研究に取り組み始めている。そこから、ロボットはどのように進化し、どんなユニークなロボットが生まれ、私たちに、人間とロボットの新たな関係を示してくれるのだろうか。

画像:アンドロイド「ERICA」

アンドロイド「ERICA」

画像:テレノイド

テレノイド