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ナノテクノロジー・材料

汎用性、経済性に優れた重合法

画期的な高機能色彩材料を実用化

後藤
大日精化工業株式会社 / 後藤 淳(シンガポール Nanyang Technological University 准教授)
A-STEP シーズ育成
「有機触媒型リビングラジカル重合を基盤とする高性能高機能色彩材料の開発」開発企業/研究責任者(H23-27)

リビングラジカル重合の特長

低分子化合物(モノマー)を化学反応でつなげて、ひものような高分子化合物(ポリマー)をつくることを重合という。産業界では、ラジカル重合という方法がよく用いられるが、得られるポリマーの長さ(分子量)がまちまちで、その構造の制御もできないという欠点がある。この欠点を解決すべく登場したのが、リビングラジカル重合である。この方法なら、分子量がほぼ均一で、構造の制御されたポリマー(構造制御型高分子)を得ることができる。リビングラジカル重合は、わたしたちの生活を支える最先端の高分子材料の創製を可能とし、高付加価値材料の新しい生産技術として、豊かな産業利用が期待されている。

多彩な機能性高分子を低コストで製造

図1 有機触媒型リビングラジカル重合
図1

この点に鑑み、リビングラジカル重合を産業界で活用する試みが本格化しつつある。しかしながら、さまざまな問題、なかでも、コストの壁は高い。それを乗り越える有効なアプローチのひとつが、後藤淳准教授(京都大学:当時)が発明した有機触媒型リビングラジカル重合である。図1はそのイメージであり、容易に入手可能で安価な有機化合物を触媒に使用するため、構造制御型高分子の製造コストを劇的に低減できる。さらに高分子に親水性や疎水性などの新たな機能を発現させる多彩な機能性基を付与できることから、適用可能な産業用途が多く、産業への普及性、汎用性の面でも優れていた。この重合法で合成可能なブロック共重合体の例として、顔料などの極めて凝集しやすいナノ粒子を液体や樹脂に対して微細に分散できる高分子分散剤があった。

画期的発明を産学官連携で実用化へ

この重合法が実用化へ踏み出すきっかけは、2008年にJSTが主催したナノ材料の新技術説明会であった。後藤准教授は、大日精化工業株式会社に当時発明したばかりのこの方法を提案し、産学官連携が始まった。大日精化工業株式会社は、この重合法を色彩材料(色材)開発の中核技術として位置づけ、世界市場で優位性と競争力のある色材製品を開発することを目指したのである。従来の色材製造に役立つだけでなく、情報技術(IT)、環境、エネルギーなどの幅広い分野への展開が期待できると考えた。そこで工業的製法の確立のため、A-STEPの支援を受け、重合性能の更なる向上の検討、パイロットプラント(試作重合釜)の設置、色材用機能性材料の開発を目標として研究を進めた。

高性能分散剤(色彩材料)の製造に成功

大日精化工業株式会社では、顔料を水や油などに均一に分散させる役割を持つ顔料分散剤への応用を検討した。顔料分散剤の構成は、図2に示すように、ポリマーは、顔料へ吸着する部分(図では赤い丸)と、水や油などの分散媒体に親和する部分(図では青い丸)とからなる。

従来のラジカル重合で得られる顔料分散剤は、顔料へ吸着する部分と分散媒体に親和する部分がランダムに並んだランダム共重合体(図2左)で、しかも分子量がそろっていない。一方、この重合法で得られる顔料分散剤は、顔料に吸着する部分と分散媒体に溶解する部分が、それぞれまとまって並んだブロック共重合体になるのだ。ランダム共重合体の顔料分散剤は、顔料吸着部位がランダムに存在して顔料に「点」で吸着するのに対し、ブロック共重合体の顔料分散剤は、顔料吸着部位が「線」になっているので、その分、顔料への吸着力が強くなる。同様なことが分散媒体との親和性にもいえる。この二つの作用により、本技術で作製した顔料分散剤を使うと、さまざまな環境・条件下において、顔料粒子をより安定して分散できるのである。このようなソフト面の研究開発と並行して、この重合法に適したパイロットプラントを設計して設置した(図3)。製造実証を経て、ナノ粒子を細かく、液媒体に安定して分散させた分散体などの実用化に成功した。大日精化工業株式会社では、色彩材料への実用を広げるとともに、幅広い分野への展開を期待している。

図2
図2:分散イメージ
ランダム共重合体型分散剤〈左〉とブロック共重合体型分散剤〈右〉の分散イメージ
図3
図3:パイロットプラント
有機触媒型リビングラジカル重合法用のパイロットプラント

※合成高分子は一般に分子量の異なった分子の集合体である。集合体を構成する各分子の分子量のばらつきを分子量分布という。

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