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ナノテクノロジー・材料

未開拓の物質系に秘められた新機能を発掘

鉄系超伝導ブームを巻き起こす!

細野 秀雄 (東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授/元素戦略研究センター長)
ERATO
「細野透明電子活性プロジェクト」総括責任者(H11-16)
SORST
「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」研究代表者(H16-22)
ACCEL
「エレクトライドの物質科学と応用展開」研究代表者(H25-30)

「トムソン・ロイター引用栄誉賞」の事実が語るインパクト!

超伝導とは、特定の金属や化合物を超低温に冷却した際に、電気抵抗がなくなる現象を指す。もともと超伝導の研究は、金属系物質や銅酸化物系物質を用いて研究されてきたのであるが、2008年に細野秀雄教授が発表した論文「鉄系高温超伝導物質の発見」は、この超伝導の世界を揺るがすインパクトをもたらした。磁性と超伝導は競合するので、磁性の象徴的元素でもある鉄を含む物質が超伝導の材料になることなど、超伝導に携わる関係者の誰ひとりとして想像していなかったのである。

この世紀の発見のインパクトは、Science誌が「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー2008」の一つと評価したことや、2013年9月には細野教授に、論文・引用データからノーベル賞クラスの研究者を選出・発表することでも知られる「トムソン・ロイター引用栄誉賞」が授与 されたことからも容易に判断できる。

つまり、この論文を機に、世界中で鉄系超伝導ブームと呼ばれるほどの研究フィーバーが起き、超伝導の新たな可能性を見ることが出来たのである。

LaFeAsO 転移温度=26K(フッ素F置換率11%)

物性物理学の常識を覆す「偶然の発見」

この素晴らしい発見である「鉄系超伝導」は、SORSTで磁性をもつ新しい半導体を探索している過程で見つかった。発見者である細野教授は当初、透明な半導体の研究を行っていた。この研究中にp型半導体としての性質を調べていた「酸化ランタンセレン化銅(LaCuSeO)」は非常に興味深い結晶構造と電子構造を持っており、細野教授はp型半導体の研究の新しい展開として、この構造でスピンを持つ磁性半導体の探索を開始した。そのなかで「酸化ランタンセレン化銅(LaCuSeO)」と同じ構造を持つ「酸化ランタンリン化鉄(LaOFeP)」の性質を調べていた際に、4K(-269℃)付近で超伝導現象を起こすことを偶然発見したのである。

磁性元素を内部に含む物質では超伝導現象は起こらないということが物性物理学では常識であったため、この発見によって常識が覆される結果となったのだ。

超伝導産業の世界市場規模は2020年に2〜3兆円!

超伝導と聞くと、私たちには縁遠いものに感じる人も多いだろう。しかし実際は、環境・エネルギー分野、医療、エレクトロニクス、輸送・産業用など、生活に密着した分野での活用が予測されており、2020年には2〜3兆円の世界市場規模になるとされている。

つまり、超伝導の研究が進めば、私たちの生活は大きく変化していく可能性を秘めているのである。まさに「夢だった未来を実現してくれる技術」と言っても過言ではない。

超伝導応用
図:超伝導応用

実用化へ向けた鉄系超伝導の研究

1911年、カマリン・オンネス博士によって発見された超伝導は、超低温でしか実現できないと長い間考えられていた。しかし1986年、銅酸化物が転移温度100K(–173℃)の壁を破り、室温で機能する超伝導体が存在するのではと大変な盛り上がりをみせた。しかし、その後20年以上の時間が過ぎても大きな変化は見られず金属系物質と銅酸化物系物質の超伝導は頭打ち状態となっていた。2008年の細野教授の鉄系超伝導の発表は、それまでの鬱憤を爆発させるかのように、多くの研究者を新たな超伝導物質の探索に向かわせるようになった。

鉄系超伝導物質における超伝導転移温度の最高は、2008年に発表された56Kより更新はされていないが、線材応用に関する基礎研究は急速な進展を見せている。鉄系超伝導物質の粉体をチューブに詰めて線材を作製するという簡便な方法で、臨界電流密度はこの1年半で1桁以上増大し、現在実用化されている金属系の線材の値に近づくようになっている。現在、日本(物質・材料研究機構)とアメリカ(フロリダ大学)、中国(中国科学院)のグループで、最高記録を競い合う状況にある。こうして、細野教授の開拓した鉄系超伝導研究は、世界を舞台とした新たな開発のラウンドに突入している。

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